「アメリカ二大政党制の岐路」(4)移民が米政治の膠着状態を変える? 上智大学教授・前嶋和弘
移民増加は民主党に有利?
それでは、なぜ移民が政党政治を変えるきっかけになるのでしょうか。ヒスパニック系移民やアジア系移民の増加が増えていけば、当面は低賃金労働を行う層となるとみられているため、所得再分配的な政策を選ぶためです。つまり、所得再分配的な政策に積極的な民主党の支持層が増えていくという見方です。 毎回の大統領選挙で約9割が民主党候補に投票するアフリカ系ほどではないですが、実際、ヒスパニック系もアジア系も2008年選挙では6割以上、2012年選挙では7割以上がオバマ(民主党)に投票しています。一方、白人の場合は過半数を超える人たちが両選挙で共和党候補(マケイン、ロムニー)に投票しています。 国勢調査局によれば、アメリカの総人口のなかでの白人の割合は2000年時点で70%程度ですが、2050年には50%程度に下がり、白人が「多数派」の地位を失う状況が予想されています。「多数派」「少数派」という概念そのものが大きく変わる中、長期的に見れば移民が増えることで、現在は拮抗している民主党と共和党のバランスが崩れ、民主党が優位な時代がやってくるかもしれません。 既に、連邦議会でもヒスパニック系もアジア系は民主党の支持基盤になっており、実際にヒスパニック系もアジア系の議員の多くが民主党所属です。2015年1月からの第114議会では、ヒスパニック系の議員は上下両院で39人いますが、そのうちの27人が民主党です。アジア系は同じく両院で12人いますが、1人を除く、11人は民主党です。
移民のつなぎ留め急ぐ共和党
もちろん、共和党は必死にヒスパニック系やアジア系のつなぎとめを急いでいます。共和党にとっても、移民にとって有利な政策を積極的に取り上げなければならない状況になっています。一方、移民たちが社会的な階層を登っていく中で、ヒスパニック系やアジア系の共和党支持者も増えていくとみられています。特に、ヒスパニック系の中でも革命をきっかけに移ってきたキューバ系の中には反共主義の人も多く、共和党支持は根強いです。2016年の大統領選挙で共和党候補の座を狙う可能性があるマルコ・ルビオ、テッド・クレーズ両上院議員もキューバ系です。 しかし、例えば、ユダヤ系のように所得や社会的な階層が高くなっていっても、毎回の大統領選挙では7割が民主党候補に投票しているケースもあります。人種・エスニシティごとの政党支持態度というのはなかなか変わらないかもしれません。いずれにしろ、アメリカの「顔」が大きく変貌しつつある中、民主党と共和党の力関係も変わっていくとみられています。