独自の審美眼で料理を作り上げる鬼才現る「1st/豪徳寺」
「料理雑誌『buono』元編集長が、世にオープンしておよそ3ヶ月以内の店の中から、この店はぜひ知ってほしい! という店をご紹介していきます。
すべてのバランスがパーフェクトに融合した料理
第一回は東京・世田谷区豪徳寺の「1st」。店名に、自身にとって独立して初めての店であり、他に無いものを作り上げるという力強い想いを込めた吉田一大シェフの料理は、ああ、これが本当のクリエイティブだな、と久々に感動したんですよ。いろんなメディアで再三書いてきましたが、ただ珍しい食材や調味料を使って、複雑かつ階層的にしただけの疲れる料理は最早ダウントレンドと言っていいでしょう。吉田シェフの料理は、食材と調理の組み合わせに好奇心を刺激させる要素は取り入れるものの、味と香りを完璧にコントロールすることで、こちらが脳で考えずとも素直に「旨い」と思わせてくれるんです。さらっと言ってしまったけれど、それって実は日本の料理人の中でも上層にいる人しか出来ていなかったりすることで、弱冠36歳ながら、既にその場所にいる状況はまさにシンギュラリティ。久々に見つけちゃったというわけですな、鬼才を。
シェフの個性が炸裂した「鴨胸肉の昆布締め(900円)」。味の濃い昆布を使って締めるが、肉の旨味と拮抗して奇跡のバランス。上にあしらわれたレモンのゼストと、昆布の風味をさらに強める塩昆布が完璧に調和する。
マッシュルームにパルミジャーノ・レッジャーノ、オリーブ油、コショウをかけた「フレッシュマッシュルームとパルミジャーノ(750円)」。ほんのり忍ばせたレモン汁がチーズの酸を補ってアタックを強め優秀なつまみに。
定番のスターター「ヒイカのマリネと九条葱にオリーブのふりかけ(850円)」。レモンとライム、魚醤を利かせたヒイカのマリネに、オリーブ、アンチョビ、ケッパー、ドライトマトを乾燥させたふりかけを合わせるセンスよ。
「国産赤身肉ステーキ オニオンソースとホースラディッシュ(1800円)」。55℃の真空低温調理を施した肉を鉄パンで一気に焼き付けた美しい仕上げ。ソースはじっくり炒めた玉ネギを白ワインで煮詰めて、醤油とバターで風味付け。