ジャック・アタリが語る日本のエネルギー問題、「欧州の知性」が予測する新冷戦後の地政学リスク
欧州復興開発銀行の初代総裁などを務めた経済学者・思想家のジャック・アタリ氏。1991年のソ連崩壊や2008年の世界金融危機などを予言した「欧州の知性」は、ロシア・ウクライナ戦争の行方と日本のエネルギー事情をどうみるのか。 5月23日発売の『週刊東洋経済』5月28日号では「エネルギー戦争」を特集。「脱ロシア」で価格が高騰するエネルギー情勢の行方や、急増する「日本の電力難民」の実態などに迫っている。 この記事の写真を見る ――6年前の著書で、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行だけでなくウクライナ危機も予測していました。今後の戦争の行方をどうみていますか。
この戦争は、1週間後に終結するかもしれないし、長期化することもありえるだろう。核兵器や化学兵器などの非通常兵器を用いる戦争になる、またウクライナの戦火がモルドバやポーランドに飛び火することも十分に考えられる。 さらには、1カ月後に世界規模の核戦争に至るおそれすらある。すべてはクレムリン(ロシア大統領府)次第となる。世界は一丸となってロシアの暴走を阻止すべきだ。 ■「中国も、いずれ民主国家になるだろう」
――新冷戦後の世界を占ってください。ロシアは中国と親密になり、両国と民主主義陣営との亀裂はさらに深まるのでしょうか。 私は、偉大な歴史と文化を持つロシアが再びヨーロッパの大国になり、EU(欧州連合)に加盟するという見通しを捨てていない。中国も同様だ。中国もいずれ民主国家になるだろう。 もっとも、ロシアと中国が民主化するまでには、数多くの社会的混乱が生じるおそれがある。 強調しておきたいのは、独裁者同士が同盟を結ぶと、世界だけでなく彼らの国民も極めて深刻な状況に陥るということだ。独裁体制下では国民の生活レベルを高い水準に保ち続けることができないからだ。
――ロシアと中国はいずれ民主化するという根拠は何ですか。 独裁政権下では、市場経済は持続的に機能しない。なぜなら、市場には安定した法規制が必要であり、とくに所有権を確約しなければならないからだ。ところが、法全般や私有財産に対する恣意的な支配こそが独裁政権の特性となる。 そして独裁政権下では、批判的な考察やイノベーションに不可欠な透明性を育むことができない。これはチリやソビエト連邦などの例からも明らかだ。