「嵐ロス」さえ噛み締められなかった2020年末に、世界に挑戦した5人の活躍を振り返る
嵐の活動休止前のラストイヤー
NEWSを脱退したワンオクTakaとの対談実現、ブルーノ・マーズ提供の楽曲で世界に挑戦、そして、メンバーの今後は? 『SMAPはなぜ解散したのか』などの著書がある、ライターの松谷創一郎さんが2020年の嵐の活動の振り返りと今後について、寄稿しました。 【文:松谷創一郎 編集:毛谷村真木/ハフポスト】 嵐の活動休止が大晦日に迫っている。 2016年のSMAP解散、2018年の安室奈美恵引退と、近年はわれわれの目の前から一世を風靡したスターが去っていった。そして、今年は嵐がそうだ。 本当なら、いまごろ世の中は“嵐ロス”の寂しさに包まれ、5人揃っての活躍を見届けていたはずだ。たとえ「活動休止」であっても、将来、活動を再開するかどうかはわからないからだ。 しかし、活動休止までのラストイヤーは、想像もできないような展開となった。もちろん新型コロナウイルスの影響だ。 4月に予定されていた中国・北京での公演は中止となり、5月に予定されていた新国立競技場のこけら落としとなるコンサートも延期、水面下で進んでいたアメリカでのコンサートも見送られた。今年予定されていた大型イベントがすべて吹っ飛んでしまった。 昨年末に、50公演・237.5万人を動員した20周年記念ツアーは終えていたものの、今年は観客を入れたライブが結局いちどもできなかった。11月に延期された国立競技場でのコンサートも無観客となり、大晦日のライブも配信のみだ。 もちろん、新型コロナウイルスの影響を受けたのは嵐だけではない。多くのアーティストは活動の機会を奪われた。近年、右肩上がりの成長を続けてきたライブエンタテインメント市場は、ぴあ総研によると前年比8割減の落ち込みになると試算されている。約100年ぶりのこの災厄は、嵐にも直撃してしまった。 2019年の大晦日からNetflixで配信が開始された『ARASHI’s Diary -Voyage-』には、コロナ禍における嵐の混乱がしっかりと記録されている。現在21話まで配信されているこのドキュメンタリーは、過去と現在の映像を行き来しながら嵐の5人に迫る。 この作品の特徴は、限りなく5人だけにフォーカスしていることだ。スタッフはほとんど映されず、マネージャーも業務連絡での会話程度しか出てこない。結果、5人のパーソナリティや関係性は十分に伝わってくるが、多くの裏方とともに創られている「嵐」というプロジェクトは立体的にはならない。ファン向けのメイキング映像の印象が強く、ファン以外にとってはジャニーズ帝国のプロパガンダ映像に感じられる。 しかし、コロナ禍に入ったあたりから一転してドキュメンタリーとしての価値を帯びてくる。当初の予定が大幅に狂い、混乱を隠せない5人は表情を曇らせていく。8月には、延期されていた「アラフェス 2020 at 国立競技場」を無観客でやるかどうか議論される。ここでは珍しくジャニーズ事務所のスタッフ(顔は映されない)が、メンバーに対して会社側の姿勢を明確に説明するシーンが出てくる。 「ジャニーズ事務所の考え方として、(国立競技場で)やるかやらないかは、アーティストの判断を仰ぐ、今回に関しては。なぜなら、やはりスカスカの──野球観ててもこれをコンサートに置き換えたとき、やっていいのかよっていう。メンバーはストレス抱え、観てるスタッフもストレス抱え、お客さんもストレス抱えて……」(17話) 会議室に漂う重い雰囲気は、ジャニーズに限らず、今年ライブ・コンサートの中止を決断した多くの関係者が体験したものであるはずだ。きわめて消極的な解決策しか存在せず、スタッフも悔しそうに声を震わせる。観る側も、鎮痛な思いを抱いてしまう。どうにもできないし、どうにもならないからだ。 結果的に、やらないよりは配信でやったほうがいい──という結論になる。万全なコンサートとは言えないが、櫻井翔の「やりたいなぁ」の一言が決定打となった。 諦念に包まれるなか、気力を振り絞ってどうにかしようともがく5人の姿はその後も映され続ける。