マイナ保険証“1415人の医師・歯科医師”が国を訴えた「行政訴訟」に東京地裁が“棄却判決”…12月以降、国が“抱える”ことになった「重大問題」とは
「健康保険証の廃止・マイナ保険証への一本化」は“ミスリーディング”
佐藤医師はまた、「12月から『現行の健康保険証が廃止され、マイナ保険証に一本化される』というのは、法的にみてミスリーディングだ」とも指摘した。 佐藤医師:「12月から26の法律が変わる。そのうち資格確認に関連する法律は7つで、それぞれの施行規則も含め、『健康保険証』の文言が『資格確認書』に置き換えられるだけだ。 つまり、法的観点からは『健康保険証』が『資格確認書』に変わるとするのが正しい。 民主的手続きを経て作成された法令の中では、『マイナ保険証に一本化する』という言葉は一言も登場しない。著名な行政法学者も指摘しているが、国や省庁が『方針』としてPRすることと、実際の法令の定め方がズレているのはよくあることだ。マイナ保険証によるオンライン資格確認についても同じことがいえると考えられる」 須田医師も、政府の対応が事実上、変わってきていることを指摘する。そして、その背景として、医療の現場での業務の停滞・混乱や、国民によるマイナ保険証利用率の伸び悩みといった現実に加え、自民党総裁選でマイナ保険証の強硬な推進派の候補者2名が下位に低迷したこと、10月の衆院選で与党が過半数割れしたことなどがあると分析した。 須田医師:「今まで、健康保険証に代わる『資格確認書』の発行の条件は非常に厳しかった。しかも、いったん健康保険証をマイナンバーカードに紐づけると解除することはできなかった。 しかし、その後、資格確認書の発行の要件が緩やかになり、紐づけの解除もできるようになっている。 また、10月の衆院選で与党が過半数割れしたのと同じタイミングで、厚労省が『マイナ保険証今まで通りの医療が受けられます』というかつてなかったPRをしている(【画像2】参照)。また、デジタル庁も公式noteで同様の発表を行った。 そういう点で、私たちは、実質的にマイナ保険証の制度が患者さんの医療を阻害するという要素はかなり軽減されていると考えている」 以上を前提とすると、従来の健康保険証と資格確認書との決定的な違いは、健康保険証が何もしなくても発行され送付されてくるものだったのに対し、資格確認書は申請により交付するものだという点にある。 政府は当面の間、マイナ保険証を持たない人のために、申請なしでも資格確認書を発行する措置をとると表明している。しかし、将来その措置が終了した時点で、「資格確認の方法をもたない人」の問題が顕在化する可能性が考えられる。また、2020年にマイナンバーカードを新規取得した多くの人が2025年に5年の更新期を迎え、期限切れで受診時等に資格確認できないケースが大量発生しうるという「2025年問題」も指摘されている。 わが国の「国民皆保険制度」の建前からは、国民が医療サービスを受ける際に資格確認ができない状態を作り出してはならない。「従来通りの医療サービス」が滞りなく提供されるようにするため、国は想定される障害をクリアし、その責務を果たしていくことが求められている。
弁護士JP編集部