金融環境の日米比較で探る、デフレスパイラル脱却の最適解
◇インフレが大きく進むのを抑えつつ、賃金を上げていくのが健全な経済 コロナショックによるインフレは、世界的な潮流です。アメリカだけでなくヨーロッパにおいても、ECB(European Central Bank)という中央銀行が政策金利を引き上げ、欧州全土、とくにEUのインフレを抑えようとしています。現状の日本のインフレは、海外に引っ張られて起こっているうえ、その率は海外に比べて圧倒的に低く、長期金利も非常に低い水準です。マイナス金利をなんとか解除したという日本は、これら海外からすれば異常に映っているでしょう。 日本で何十年もデフレになってしまった大きな原因の一つは、国内需要の弱さです。アメリカは国内の需要が大きいのに対し、日本は外需頼み。海外の需要が大きくなれば輸出企業は儲かるものの、その影響は限定的です。さらに日本の場合、賃金の上がらないことが大きく関係しています。物価が下がると企業も収益を上げられず、賃上げもできません。それによって、さらに消費が抑えられるという、悪循環が続いてしまっていました。 現在は賃金が上がらないまま物価が上がっているため、消費を減らして将来のために貯めておこうという、より悪い方向に進んでしまっているように感じます。最近では、アメリカの平均時給が5000円を超えた一方で、日本がようやく1000円の壁を超えたというニュースがありました。もちろん今の為替レートを反映していますが、それでも大きく差が広がっています。 インフレには、原材料価格などの高騰によって、直接的に物価を押し上げる「一次効果」と、一次効果が経済全体に波及し、物価が上昇することで賃金が上昇し、さらに物価が上昇する「二次効果」があるとされています。現状の日本は単純に、海外から入ってきたものが高いから国内の物価が上がっているので、海外のインフレが下がり輸入物価が下落すれば、そこで終わってしまいます。2%ほどのインフレ率をうまく維持できるかは、今後の金融政策、さらには企業の賃上げに関係してくると思われます。 急激なインフレを抑えつつ、賃金を上げていくのが健全な経済です。かつては日本でも賃金が上がり続けていたものの、バブル崩壊以降、各企業とも賃上げになかなか踏みだせずにいます。ただ、円安水準を受けて、大企業や輸出企業のなかには、過去最高益を達したところもあり、そういった企業から上げていくことで、ほかの企業にも波及してくれればと期待しています。 今後は人口が減少し人材の確保も難しくなっていくので、賃金を上げて労働者にとって魅力的な企業であり続けることは重要です。ベースアップがなければ、消費も増えていきません。これまでは、そのための手立てが政府の呼びかけぐらいしかありませんでした。今後どう政策を進め、企業がどう対応していくのか。景気の回復と安定には、官民の協力が不可欠だと言えるでしょう。
関根 篤史(明治大学 政治経済学部 准教授)