金融環境の日米比較で探る、デフレスパイラル脱却の最適解
◇2016年からのマイナス金利をようやく解除し、17年ぶりの引き上げへ インフレ率の変動には、政策金利の設定など金融政策も関わってきます。政策金利とは、景気や物価を安定させるなど、金融政策上の目的を達成するために中央銀行、日本なら日銀が設定する短期金利のことです。一般的に、好況時には引き上げてインフレを抑制し、不況時には引き下げて消費や投資を促します。 アメリカの中央銀行にあたるFed(Federal Reserve)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年3月に政策金利を限りなくゼロ近くに誘導するゼロ金利政策を導入しました。しかし物価が大きく上がったことを受けて、インフレを抑えるため2022年3月に解除。政策金利をおよそ1年で5%以上も引き上げたところ、2024年初頭にはインフレ率が目標である2%に近い値となっています。 政策金利を上げると、さまざまな市場において金利が上がっていきます。すると何が起きるのかというと、今、消費するよりも、銀行に預けて将来使った方がいいとなり、消費が下がっていくわけです。ローンの金利が上がれば、家や車なども買いづらくなる。また、銀行からの借り入れで投資をしようという企業があった場合、たとえば収益を5%得られる見込みだとしても、銀行の金利が7%になっていれば、むしろ赤字になってしまい投資できません。すなわち人々の消費を抑えることで、物価を抑えてインフレ率を下げようというのが政策金利を上げる意図です。 一方、日本ではバブル崩壊後、長らくゼロ金利が続いていましたが、それでも景気の回復が進まなかったため、2016年にマイナス金利を導入しました。これは民間の金融機関が日銀に預けている日本銀行当座預金の一部にマイナスの金利を適用する政策です。これにより企業への貸し出しや投資を促し、経済の活性化を図りました。 中央銀行の政策金利の変化は、イールドカーブに表れます。イールドカーブとは、国債の利回りを描いた曲線のことです。横軸に国債の償還までの期間、縦軸に国債の利回りを取って表現します。一般的に利回りは、償還までの期間が短いと低く、長くなると高くなるのですが、マイナス金利政策と長期国債の買い入れによって、短期および長期の金利が低下すると、イールドカーブはフラット化してしまいます。図は、日本のマイナス金利政策導入前後のイールカーブを表しています。マイナス金利政策前の2015年6月30日のイールドカーブと比較して、マイナス金利政策導入後の2016年6月30日イールドカーブはフラット化しています。このように金利が低下すると、国内の金融機関が預金から得る利息が減少し、収益が圧迫されてしまう悪循環に陥ってしまいます。そのため日銀は、短期金利に対してはマイナス金利を適用しつつも、長期金利に対しては大体0%になるよう誘導する、イールドカーブ・コントロールを行い、景気を刺激しようとしています。 結果的にコロナショックが引き金となりつつも、インフレ率の上昇を受けて、2023年10月にはイールドカーブ・コントロールの柔軟化を決定。それまで1%を上限としていた制限を排し、長期の国債である10年国債利回りの上限を+0.5%から+1.0%に設定しました。これに伴い、メガバンクは住宅ローンの固定金利を引き上げています。今年3月にはマイナス金利も解除し、およそ17年ぶりに政策金利の引き上げを決定しました。