金融環境の日米比較で探る、デフレスパイラル脱却の最適解
関根 篤史(明治大学 政治経済学部 准教授) 3月末、岸田文雄首相は2024年度予算の成立を受けた記者会見で、「2025年以降に物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させる」と表明しました。物価は私たちの生活に直結します。金利も同様です。コロナショック以降、日本の物価や金利は大きく変化しました。アメリカでは、さらに大きな変動が起こっています。金融政策の影響を受けて動いているという点は共通していますが、その推移や状況は両国でまったく異なっています。日米の違いは、なぜ起こったのでしょうか。
◇20年以上も0%付近だったインフレ率が、コロナショックにより上昇 バブル崩壊後の1990年代半ば以降、日本のインフレ率は長らく0%付近で推移してきました。インフレ率とは、物価の上昇度合いを表す指標で、前年の消費者物価指数(CPI)と比較した上昇率を指します。一般的に経済成長は適度なインフレ率の上昇を伴うもの。0%付近での推移が20年以上も続いた日本は、慢性的なデフレと呼ばれる状態でした。 デフレはモノに対して相対的に貨幣の価値が上がっていく状態であるため、消費が先延ばしにされ、モノが売れなくなっていきます。すると企業の業績は悪化し、消費者の所得も減るためさらに消費を控え、企業もモノの価格を下げるしかなくなる悪循環が起こりやすくなってしまうのです。 長引く不況から脱却しようと、日銀(日本銀行)はインフレ率2%を目標に、さまざまな金融政策をとってきました。世界的にも2%あたりがデフレのスパイラルに陥らない水準だとされています。日本では長年達成できずにいましたが、コロナショック以降はインフレ率が上昇し、2023年12月にはコアCPIが前年同月比2%を超えたのです。コアCPIとは、CPIのうち天候要因で値動きの激しい生鮮食品を除いて算出した数値のことで、その変化率をコアインフレと呼ばれています。 一方、アメリカで算出されている食料品とエネルギーを除いたコアCPIは、2000年代から前年同月比2%ほどで推移を続けていましたが、コロナショックを経た2022年6月には9%を超える値となりました。1年間でこれほどまでに上がるのは、発展途上国ではよくあることですが、先進国で起こるのは異常事態です。 コロナショックがインフレ率の上昇にどう影響したのか。自宅で仕事をする人が増えるなど、人々の働き方や生活のスタイルが変わったことが消費に大きく影響したのだと考えられています。さらにアメリカは、以前からインフレ傾向にあり、コロナによってそれが一気に加速。需要が大きくなり労働供給不足が発生し、賃金が上昇してさらなるインフレが進みました。かたや日本は、輸入物価の上昇が大きく起因しています。原材料価格や石油や天然ガスなどの価格の上昇により、押し上げられた部分が大きいと言えるでしょう。