離婚訴訟・慰謝料の実際や相場をご存知ですか? 「不貞行為」「共同親権の問題点」については?…心身をすり減らす「泥沼離婚」予防策を元裁判官が教えます
「共同親権制」が認められるとどうなる?
―― さて、離婚については、子どもの親権の問題もしばしば話題になりますね。これに関連して、親族法が改正されると聞いていますが、どのようなものになるのでしょうか? 瀬木これまでの単独親権制と並んで、共同親権制が提案されています。 共同親権制それ自体は、両親と子、また両親どうしの関係に問題がない場合について認めるのなら、一つの望ましい制度です。 ただし、海外の制度は、家庭裁判所等の注意深い監視とケア(たとえば、一方の親に何らかの問題があれば家庭裁判所が即時に介入して適切な処置をとるなど)とセットになっています。そうした制度的手当てのないままこれを実施すると、必ずさまざまな問題や紛争が生じます。 私は、共同親権を認めるのなら、その要件については、とりあえず厳しく限定し、当事者の申立てに基づき簡易な審理を行った上での家裁の許可を必要とし、家裁が当事者の意思や具体的な共同親権行使の方法について確認した上でこれを認めるのが相当と考えます。 父母の協議だけでこれを認めると、力関係の弱い者(全体としてみれば、妻の側であることが多い)が合意を強いられるなどのことから、先のように種々の問題が生じ、ひいては子の福祉にも悪影響を及ぼし、制度の信頼もそこなわれるおそれが大きいからです。 離婚に関しては、最低限共同親権の問題だけは家裁が関与すべきであり、それが無理なら、当面は単独親権制を維持するのが穏当だと思います。 こうした改正案の内容や問題についても、正確には『我が身を守る法律知識』に詳しく記したとおりです。 ―― 共同親権という言葉の響きは悪くありませんが、憎み合って決別した男女が、子育てという難事業をうまく連携して行えるとは思えないのですが? 瀬木そうですね。第一に、父親と母親が、子どもの関係では、自分の感情を離れて、子どもの利益の観点から冷静に考えられること、第二に、さっきも述べたような家裁等の制度的なケアが必要です。 日本の場合、第一の点もまだ弱いですが、第二の点が先進国とはいえないレベルにまで致命的に後れてしまっていることが、より大きな問題です。 【編集部注記】なお、2024年5月に成立した共同親権関係の家族法改正については、瀬木教授の新刊『現代日本人の法意識』でくわしく分析されています。 ―― ほかに、離婚、子ども関係で知っておくべきことがあるでしょうか? 瀬木離婚前の別居夫婦間の子の奪い合いは凄惨なものですし、国際結婚は、壊れるときには国際家事事件となって何かと大変になります。 後者に関連して、日本も近年加盟したハーグ条約の内容も重要です。子どもをめぐる紛争の激化、国際結婚の増加等により激しい争いが増えていますから、最低限の知識はもっておくとよいかと思います。 ―― 『我が身を守る法律知識』の各所にくさびのように打ち込まれている、一見「深くて広がりのある教養新書的な記述」にみえるが、実際には、「現代人として知っておくべき必要性や実用性もきわめて高い記述」の1つですね。