離婚訴訟・慰謝料の実際や相場をご存知ですか? 「不貞行為」「共同親権の問題点」については?…心身をすり減らす「泥沼離婚」予防策を元裁判官が教えます
慰謝料の相場は?年金も分割できる?
―― 離婚訴訟というと、慰謝料をすぐに連想します。ハリウッドのスターやIT企業の創業者の離婚訴訟では天文学的な慰謝料が支払われるようですが、日本の相場は、どの程度なのでしょうか? 瀬木日本では、おおむね100万円から500万円くらいの間であり、有責性の程度いかんにもよりますが、200ないし300万円くらいが比較的多いでしょう。請求者の側からみれば、あまり大きな金額ではないですね。 ―― 桁が違いますね。なぜこのような格差があるのでしょうか? 瀬木近年まで、離婚給付全般について、日本人の感覚は、裁判官も含め、にぶかったことが大きいでしょうね。「合わせ物は離れ物、離婚は個々人の問題」という感覚です。 瀬木でも、財産分与については、基本は、「婚姻後に2人の協力によって形成された財産の2分の1」ですから、資産のある夫婦の場合には、大きなものになりえます。 また、離婚訴訟等では、年金分割(婚姻期間中の保険料納付額に対応する厚生年金の分割)を求めることもできます。 養育費については、今では、おおよその基準としてのマニュアルが作成され、公開もされています。別居期間中の生活費(養育費を含む)についても、離婚訴訟で求めることが可能です。 ただし、こうしたことも、事前にきちんとした知識をもっていないと、的確、適切な請求やその前提としての証拠収集等ができません。ですから、『我が身を守る法律知識』に記したような知識やリテラシーについては、既婚の人々のみならず、これから結婚しようという若者たちをも含め、ぜひ知っておいていただきたいですね。結婚した人のかなりの割合が離婚もするという時代なのですから。
離婚訴訟と不貞慰謝料請求訴訟は「何でもあり」
―― 離婚訴訟は泥沼になりがちですが、人間ドラマとしてみると、なかなか興味深いものがあります。差し支えない範囲で、先生の印象に残っているケースがありましたら教えてください。 瀬木確かに、離婚訴訟の本人尋問は、ときとして傍聴者がいますね。誰にとってもわかりやすいですからね。 離婚訴訟とか不貞慰謝料請求訴訟というのはもう本当に何でもありで、「浮気は男の甲斐性ですから」と法廷で堂々と開き直る夫とか、嫌われて逃げられているのに「心から謝れば許してやる。やり直そう」と妻に切々と訴える夫とか、自分は多数の女性関係をもっていた夫が妻の初めての浮気には激怒してその相手に高額の慰謝料を請求するとか、小説やドラマの種になりそうな事案も多いです。これらは夫の側ですが、もちろん妻の側についてもいろいろあります。 でもまあ、たとえばゾラが、『居酒屋』や『ナナ』等の小説で、すさまじい筆力と洞察力をもって描き切ったとおり、人間の秘められた部分というのは、そういうものです。19世紀も今も、変わりないですね。ですから、そういう部分を法廷でむき出しにせざるをえない離婚等関係の争いは、訴訟以前の段階で適切に収めるのが一番なのです。弁護士を頼むのもいいですが、それ以前に、予防法学的知識があれば、避けられる、あるいは早期に解決できる紛争がきわめて多いのは、相続と同じです。 ―― 全くそのとおりで、『我が身を守る法律知識』の相続の章の46頁にも劣らない、クリアカットに凝縮された親族法(家族、夫婦、離婚、子ども)関係の知識が、親族の章の32頁にも、ぎっしり詰め込まれていますね。