新3本の矢「GDP600兆円」 GDPが増えるとはどういうこと?
次の図は高度成長期の実質GNPとその内訳の推移です(釣 雅雄(2014)『入門日本経済論』、図表5-3抜粋)。GNP (国民総生産)はかつての経済指標で、現在のGNI (国民総所得)にあたるものです。高度成長期でも変化率、とくに民間投資の変化率の変動は大きいのですが、このような水準と内訳の推移をみると、消費と投資がバランス良く増加していることが分かります。 アベノミクスには批判もあり、私も金融緩和の財政リスクには憂慮しているのですが、全般的には練られた政策とも感じます。たとえば、その対案が「家計支援(給付?)で民間消費を喚起し、経済成長」というような単純なものだとすると、そちらのほうが不安です。
●「GDP600兆円」は実現できるのか?
では、名目GDP600兆円は実現するのでしょうか? 私は、これは実現するのかどうかよりも、どのように政府が実現しようとするのかが重要だと考えています。その視点は、短期的な経済対策によるのか、長期的な経済潜在力を上げようとするのかについてです。 短期的な経済政策とは、たとえば、政府が100兆円の政府支出の増加をしたとします。政府支出(消費および公共投資)はGDP(支出面)の構成要素の一つなので、少なくとも100兆円が上乗せされ、600兆円の目標がほぼ達成されます。もちろん、政府が100兆円も支出すると財政赤字が莫大になるので、将来の増税が厳しくなります。このような政策は需要の先食い(現在のGDP引き上げが、将来のGDPの引き下げになる)ので、意味がないばかりか、財政破たんリスクを増大させてしまいます。 2020年頃に政府が政府支出の大幅な増加により、一時的にGDPを引き上げることは可能ですが、短期的な需要増加政策は採用すべきではありません。 では、政府はどのような政策を採用しようとしているのでしょうか。これは、経済財政諮問会議のウェブページで資料を確認することができ、「希望を生み出す強い経済実現に向けた緊急対応策」(平成27年11月26日)などに政策が提示されています。 たとえば、投資促進・生産性革命(法人税改革など)、賃金上昇の実現、女性・若者・高齢者の雇用を促進(500万人規模)、TPPと攻めの農業、地方創生の本格化など、長期的な日本経済の構造問題への対策が並んでいます。(一方で、国土強靭化も含まれていますが。)中でも、 サービス産業における生産性改善が構造改革のカギとなるでしょう。 とはいえ、これらは実現が難しいものも多いので、いつか、政府が短期的な経済政策に移行してしまうかもしれません。これからしばらく、政府が財政支出を増やすことで安易に目標を達成しようとしないかどうかに注目していくべき でしょう。GDP600兆円の実現はかなり難しいのですが、それを目標として日本経済の構造を見直すことは悪くありません。ただ、達成されないと見込まれたときに、実現しようとしすぎないようにすべきです。その先には財政破たんというリスクがあるからです 。 (岡山大学准教授・釣雅雄)