新3本の矢「GDP600兆円」 GDPが増えるとはどういうこと?
図は過去20年程度の名目GDP、実質GDP(2005年暦年連鎖価格)、および実質GNIの推移を示しています(内閣府、「国民経済計算」(四半期データ、図中の値は年額換算値))。黒い線が名目GDPですが、この動きは芳しいものではありませんでした。実質では伸びがみられるものの、名目では現在と20年前がほぼ同じ水準で、1997年の金融危機直前と比べると現在のほうが低い水準です。 政府はこれまでも名目成長率は3%、実質は2%程度を目標としていたので、そこから大きく上乗せされたというわけではありません。今回、実質増加は60兆円増と見込んでいるようですので、名目成長率(年平均) 3.45%、実質成長率1.82%、物価上昇など1.63%と計算できます。インフレ率(物価上昇率) が2%に達すれば、それほど困難な目標でもなさそうですが、実際には、それが難しいということです。 これまでの政策目標を踏襲しつつ、新3本の矢として、GDP600兆円というわかりやすい数値目標が掲げられたと考えられます。
●「GDPが増加する」とは?
注意深く政府の表現を読むと、民需主導の「好循環」という表現がなされていることに気が付きます。 通常、ニュースなどで紹介されるGDPは支出面の統計 で、民間消費、民間投資、政府消費支出、公共投資(公的固定資本形成)、純輸出(輸出-輸入)などで構成されます。ただし、GDPには支出面のほかに、生産面や所得面 があります。これら3つは、中身はそれぞれ異なりますが、合計額は同じになります。生産されたモノが購入(支出)されると、それは生産者の収入(所得)になるからです。たとえば家計を思い浮かべるとわかるように、所得は消費か貯蓄かに振り分けられますので、 「所得=消費+貯蓄」 と書けます。一方、支出面のGDPは主に消費と投資で構成されます。ここから、貯蓄と投資は基本的に同額になることがわかります。貯蓄は銀行を通じて貸し出されて、投資へと変化するからです。これを「ISバランス」といいます。 所得が増えれば、消費も貯蓄(投資)も増えるでしょう。けれども所得やGDPが増えない状況で消費が増えれば、必然的に貯蓄(投資)は減ることになります。もし、消費と投資がともに増えることがあれば、今度は資金が足りないので、海外から資金を得なければならなくなります。 このとき、純貯蓄(経常収支)が減って、やはりGDPは増えません。 ポイントは、経済はいろいろな面でつながりがあり複雑だということと、そのバランスが必要だということです。GDPが増加するには、まさに「好循環」が必要で、経済成長期にはバランスよく、家計消費も、企業業績も、投資も増えていくことになります。