「不動産投資は、チャリンチャリンお金が入る不労所得ではない」 借金2億だった20代から復活、リニア開通をにらむ不動産賃貸会社社長 ~山長・後編
祖父の死をきっかけに、28歳で借金2億円と月20万円の赤字を垂れ流すアパートを相続した「山長」(山梨県甲府市)の長田譲代表取締役。自ら掃除するなど、賃貸経営に主体的に関わることで黒字化に成功したが、再び暗雲が…。賃貸物件の空室率が全国最悪レベルの30%ともいわれる山梨県で、「空き室のないアパート経営」を実現した長田氏は、どうやって復活したのだろう。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆世界にたった1つのカフェ風キッチンを自らデザイン
――賃貸アパートが再び赤字に転落して、どんな手を打ったのですか? 当時通っていた美容室のオーナーに「アパートの集客がなかなかうまくいかない」と悩みを打ち明けました。 すると、オーナーは「女性受けするカフェっぽい部屋にしたらどう?」とアドバイスしてくれました。 実は、私は「カフェっぽい部屋」の意味がさっぱりわかりませんでしたが、いろいろ調べてみると、木などの自然素材を取り入れたインテリアを重視した部屋だと感じました。 私の物件はファミリータイプが中心で、20~30代のカップルや新婚さんの入居が多い。 管理会社に聞くと、部屋選びは女性が主導権を握っているとのこと。 カフェ風のキッチンをつくれば、集客できて、家賃も上げられるのではないかと思いました。 しかし、カフェ風のキッチンは既製品にはありません。 自分でデッサンを描き、工事業者に依頼しました。 職人さんにイチから作ってもらった世界に1つの特注品です。 ――カフェ風キッチンに対する反響はどうでしたか? 募集を開始したところ、内見の方の反応がものすごく良かったです。 でも、入居者がすぐに決まるかと思っていたら、そんなに甘くはありませんでした。 成約までに半年以上かかったのです。 自分なりに原因を分析し、導き出した答えが「集客」でした。
◆大手サイトからではない、自社による集客が驚異の約8割
――集客にどんな課題があったのですか? 部屋を探すとき、ほとんどの人は大手不動産ポータルサイトに希望条件を入力して検索します。 ところが、私の物件は築年数が古く、リノベーションに力を入れているので家賃も相場より少し高い。 そうなると、部屋を探している人の検索条件にそもそもヒットしないのです。 だったら自分で集客すればいいと考えて、2018年にホームページに加えてInstagram、Twitter(現X)、YouTubeの3つのSNSを開設して独自に情報を発信し始めました。 それでもうまくいかず、2020年にはホームページのSEO(検索エンジンの最適化)を強化しました。 その結果、反響があり、安定して集客できるようになりました。 ――自分で集客している不動産オーナーなんて珍しいですよね? 自分が集客するという発想のオーナーなんてほとんどいないと思います。 うちは自社による集客が8割くらいを占めます。 自分で集客はしつつ、契約は仲介会社を通します。 仲介会社ともWin-Winの関係になります。 ――業績はどうですか? 2023年は家賃収入が2000万円を突破して、過去最高収益を達成できました。 借金はまだ残っていますが、もう1億円を切っています。 営業利益は2017年と比べて4倍になりました。 ――不動産投資というと、不労所得でお金がチャリンチャリン入ってくるイメージを持っている人がいると思いますが、泥臭い事業ですね。 自分で部屋の掃除をしたり、リフォームや集客を考えたり。 不労所得と思った時点で間違いです。 不動産投資は、実質的には経営です。 経営者としての目線がないと成り立ちません。