<football life>監督就任は開幕9日前 前代未聞の危機経て長崎はJ1に届くのか
サッカー・J2のV・ファーレン長崎は、1年前に見舞われた前代未聞のトラブルを乗り越え、2018年以来、クラブ史上2回目のJ1に手が届く位置に駆け上がってきた。続投が決まっていた監督は知らぬ間に海外のクラブと契約を交わしてクラブを去り、新監督が決まったのは開幕直前だった――。 危機的状況で迎えた今シーズンだったが、11月10日のJ2最終戦は5得点のゴールラッシュで愛媛FCを圧倒した。2位横浜FCが引き分けたため、J1自動昇格圏の2位には届かなかったが、堂々のレギュラーシーズン3位で、12月1日からのJ1昇格プレーオフ(PO)に進むことになった。 1年前はドタバタだった。22年途中に就任したブラジル出身のファビオ・カリーレ前監督と23年11月に新シーズンの契約を更新したが、カリーレ氏が12月中旬に母国のクラブと契約合意したことが判明した。この契約問題は、クラブが国際サッカー連盟(FIFA)にカリーレ氏を提訴する事態にも発展した。 チーム編成の真っ最中の時期に監督人事が白紙となれば、選手補強を含むチーム作りへの影響は避けられない。柏レイソルや横浜FC、大分トリニータで監督経験のある下平隆宏現監督を1月にヘッドコーチに招いて実質的なチームの指揮を任せ、開幕9日前に監督に昇格させる異例の経緯をたどった。 主将のMF秋野央樹(ひろき)は「監督が急に代わって、強化部もほしい選手をシーズン前には取れてないと思う」と当時のチーム状況を指摘する。だが、窮地で選手たちは一つになった。 下平監督は初めて選手たちに会った時、「良いパーソナリティーを持った選手が多い。一体感を持っていける集団だと感じた」という。初めてのミーティングでは不安そうな選手を前に信頼感を口にし「必ず昇格できる」と訴えた。主力の一人のDF米田隼也が「チームの戦力をすごく信じてくれていた」と感謝するなど、選手たちにその言葉が響いた。 戦力的にはJ2で有数の陣容がそろっていた。23年度のトップチーム人件費は約18億円でJ2平均の約8億円の2倍以上。前線に強力な外国人FWを擁し、23年は42試合でリーグ4位の70得点と高い攻撃力を誇った。一方で、22チーム中14番目の56失点と守備の粗さが目立ち、7位でJ1昇格POには進めなかった。 そうしたチームに下平監督が求めたのは「かなり厳しくやってきた」という規律だ。守備時の布陣を変え、高い位置でボールを奪ってカウンターへつなげる意識を植え付けた。 「守備面が良くなれば、このチームはもっと良くなると思っていた。それをシモさん(下平監督)がやってくれて、自信を持ってシーズンに入れた」と米田は振り返る 開幕から2試合は勝てなかったが、第3節から22試合連続負けなしで一時は首位に立った。組織的な守備により38試合で39失点と大幅に守備力が改善。安定した守備から繰り出すカウンター攻撃もはまり、J2最多の74得点を挙げた。 秋野は「(前監督の時は)規律があるようでなく、自由にやっているサッカーだった。(下平監督になり)自分たちの基盤ができ、(求めることの)提示が具体的になり、選手はやりやすくなった。僕に限らず、ほとんどの選手が、(監督交代はプラスだと)感じたと思う」と言う。 J1昇格POでは12月1日に、シーズン6位のベガルタ仙台と長崎・ピーススタジアムで対戦し、引き分け以上で同7日のPO決勝に進む。 「チームはたくましくなって終盤を迎えられ、一年を通して選手もチームも成長した」と下平監督。チームの根幹が揺らぐようなピンチを力に変えた長崎が、7季ぶりのJ1返り咲きを目指す。【丹下友紀子】