自動車とジェネリック医薬品、両業界に共通する「成功を手助けする黒子」の存在
他メーカーを徹底的に分解したトヨタ
たとえば、自動車業界では、何十年も前からリバース・エンジニアリング(隠れた仕組みを見出して逆設計を行うこと)が重要な役割を果たしてきた。1933年、豊田喜一郎は新型シボレーを分解した結果から、織機製造から手を広げて自動車開発部門を設立すべきだと一族を説得した。 3年後、喜一郎一族の会社「豊田自動織機製作所」は第一号の車を発売し、自動車開発部門をトヨタと改名して独立させた。一族の姓「豊田」を8画(日本におけるラッキーナンバー)で書けるように、カタカナで表記した名前だ。 それから1世紀近くたつ頃には、豊田喜一郎のかつての型破りなアプローチが、自動車メーカーの標準的な開発手順の一部になっていた。今日、自動車メーカーは日常的にライバル社の車すべてを分解している。ただ、彼らはこのプロセスをリバース・エンジニアリングとは呼ばず、「競合ベンチマーキング」と呼んでいる。 エンジニアたちが競合他社の車に飛びつき、手際よく部品を1つずつバラバラにしていく。そして技術的な進歩、想定されるコスト削減幅、他の自動車メーカーの戦略的方向性に関してわかったことを記録していく。 自動車業界について特に注目したいのは、主要メーカーがすべて競合他社の製品をリバース・エンジニアリングしているということでもなければ、そのことを公言してはばからないということでもない。 同業界の特筆すべき点は、近年、自動車メーカーが集団で競合他社の知的財産を共有しはじめたということだ。時には、その情報の中に自社の製品に関する機密情報が含まれる場合もある。 この動きには「A2MAC1」という明敏なフランス企業の取り組みが貢献している。熱烈なカーマニア兄弟によって1997年に設立されたA2MAC1は、専門的に車を分解し、そのレポートをサブスクリプション・サービスで販売している。 ネットフリックスのような彼らのデータベースには、600を超える車の「分解結果」と、各部品の重量から形状、ボルト1本1本のメーカーに至るまで、全部品の詳細な分析結果が収められている。 A2MAC1のサブスクリプション・サービスでは、分解した部品を現物検査のために借り出すことも可能で、最近は「VRグラス」を用いて顧客が遠隔で部品を見られるように、部品のスキャニングまで行っている。 この20年のあいだに、なぜ自動車の信頼性がこれほど高まったのか、あなたも疑問に思ったことがあるだろう。その一部には、A2MAC1が貢献しているかもしれない。 Ron Friedman(ロン・フリードマン)