ウサギはよくて犬はダメ? 18年続ける「学校犬」で得た気づき 命の誕生から終わりまで学ぶ子どもたち
小学校で飼育されている動物といえば、ウサギやハムスター。近年はメダカなどの魚も増えています。一般家庭のペットは犬や猫が大半を占めますが、小学校ではまったく飼育されていません。日本で唯一と言われている例外は、「学校犬」がいる東京都杉並区の立教女学院小学校。教頭の吉田太郎さんが18年前に始めたこの活動は、「動物介在教育」として注目を集めています。ふれあいによって癒やされているのは誰なのか。学校犬の活動を通して人と動物の共生を考えてみませんか。 【写真】学校犬が亡くなった…その時、子どもたちは? 全国でも珍しい「学校犬」と学ぶ日々
毎朝、小学校に登校する犬たち
東京都杉並区の立教女学院小学校には、小学校で唯一と言われている「学校犬」がいます。教頭の吉田太郎さんが始めた活動で、今年で18年目になります。きっかけになったのは、「学校に犬がいたら楽しいのに」という児童の一言でした。 「犬を連れてその子と散歩に行ったりしているうちに、笑顔を取り戻してくれたんです。動物とふれあうことが心の癒やしになることを目の当たりにして、学校教育に犬を参加させる『動物介在教育』を始めようと思いました。子どもたちの仲間となる『学校犬』ですね」 最初は吉田さんが愛犬を課外活動に連れて行って児童と遊ばせたりして、同僚や校長、保護者の理解を得ながら本格的にスタート。親しみやすくトレーニングしやすく、抜け毛が少ないことなどを条件に、エアデール・テリアを選び、「友だちのような存在になってほしい」という願いを込めてバディと命名しました。 初代の学校犬となったバディは、吉田さんと登校して下校するまでの間、児童と一緒に教室で学び、放課後には遊ぶ人気者に。「お世話係の『バディ・ウォーカー』を募ったら、50人近くが立候補してくれました」と吉田さんはうれしそうに言います。
ウサギではなく犬を選んだ理由
学校犬がこれほど多くの人に受け入れられたのは、「人類最良の友」とまでいわれる犬だからでしょう。吉田さんは多くの学校で飼育されているウサギを選びませんでした。 「小学校で動物を飼う一番の目的は、子どもたちが命を大切にすることを学ぶため。しかしウサギなどの小動物を飼育している学校へのアンケートでは、『目的を達成した』という回答はたったの2割と聞きました。なぜだろうと思ったら、ウサギは警戒心が強くて臆病なうえ、抱っこも苦手だそうですね。多数の児童がふれあうのに適していないうえ、ウサギにとってもストレスになるのではないかと思いました」 これは吉田さん自身が小学生の頃に、ウサギとニワトリの飼育委員を経験して感じたことです。「不衛生な飼育小屋でときどき世話をするくらいで、一緒に何かするわけではなく、正直に言うと楽しい思い出はありません。しかし犬とは長い間暮らしてきて、友だちにも家族にもなってくれる存在だと実感しています」と吉田さん。 そもそも飼育動物にウサギが選ばれた理由は、鳴かないことや、かまれてしまう咬傷(こうしょう)事故が少ないこと。理科の授業や動物愛護に加えて、戦時中には毛皮や食料を供出するために飼育されていた一面もありました。それが戦後になって命の教育に置き換えられて残りました。 【関連リンク】昭和10年代の理科教育における「学校飼育動物」を用いた教授内容と実践記録 ウサギは獲物として狙われる被食動物なので、用心深く怖がり。気候の変化にも弱く、繊細な生き物です。家庭で手厚く世話をするならともかく、校庭の飼育小屋で簡単に飼える動物ではありません。「命の大切さを学ぶために、知らずしらずのうちに命を粗末にしては本末転倒になってしまうのではないか」と吉田さん。