『おむすび』が描く理想の「たすけあい」=「支えあい」 悪意ではない善意ほど難しい
「NHK歳末たすけあいのシーズン」である。朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』でも「たすけあい」が描かれている。主人公・結(橋本環奈)を筆頭に米田家の人たちは、困っている人を放っておくことができない。自分のことを後回しにして、他人の世話を焼くお人好したちの集まりなのである。それを彼らは「米田家の呪い」と自虐的に語る。 【写真】山本舞香が元アスリートとして見せた走り姿 第9週「支えるって何なん?」(演出:大野陽平)では、米田家の人々のそのおせっかい癖(へき)が他者にとってはうっとおしいだけであるという残念な事実を描き出す。呪いは自分たちにではなく、他者のほうに向けられているかのように。米田家の人々は、沙智(山本舞香)の言う「善意の押しつけ」、要するに「善意」という呪いを他者にかけているふうに見えるのだ。悪意ではないから始末が悪い。 歩(仲里依紗)と聖人(北村有起哉)は、阪神・淡路大震災で娘の真紀(大島美優)を亡くして以来、仕事にも手がつかず、近隣の人たちとの関わりも絶っている渡辺孝雄(緒形直人)を心配してコミュニケーションを取ろうとする。だが、拒絶される。歩は真紀のお墓参りに行くと花を突っ返され、聖人は、引っ越しの挨拶の糸島の野菜を突っ返され、落胆。好意とは、受け取る側が受け取る準備のないときには意味を成さないのである。 結は翔也(佐野勇斗)を支えたいと献立を作ることにする。もともと栄養士の学校に通うことになったのも、プロ野球選手を目指す彼を助けたい一心からだった。せっかくの勉強をさっそく役立てようとしたが、勉強不足ゆえ、失敗してしまう。分量を考慮に入れず、翔也には足りず、逆に、パフォーマンスの低下を招いてしまった。翔也のほうが結の気持ちを慮って、量が足りないと言えずにいた(高校時代は結のお弁当のせいで食べすぎて太り、社会人になったら足りなくて弱ってしまうという、翔也の結への愛は滑稽なほど尊い)。 結は翔也に負担をかけたうえ、沙智の心象を害することもして、もう散々。沙智がアスリート専門の栄養士を目指していると知って、自分と同じと気を良くした結は、献立作りを手伝ってほしいと頼んだのだが、それが沙智には気に入らない。簡単にいっしょにするなと不快感を露わにする。 結としては献立作りも、沙智へのお願いも、「よかれと思った」ことであるのだ。おそらくだが、沙智ともっと打ち解けたいという気持ちであったと思うし、アスリート専門の栄養士としての知識が結よりも豊富であることへのリスペクトもあったのではないだろうか。でも、表現が拙くて相手に伝わらない。ただ厚かましい印象が際立ってしまう。 しかし、結の悪気のなさが沙智には伝わったのか(沙智が他人の気持ちに敏感なのだろう)、沙智は結の献立作りを手伝うことになる。沙智の「善意の押しつけ」という指摘から、結は目覚め、まずは翔也の置かれている状況を理解したうえで献立を作ることにする。 結の行動を後押ししたのは愛子(麻生久美子)である。「話せば伝わる」と前向き(性善説的?)だ。彼女も米田家の一員、他人のために一肌脱ぐことを厭わない。歩と聖人が落ち込んでいると、お好み焼きパーティーを緊急開催し、結の同級生・佳純(平祐奈)が家族のことで悩んでいると知るなり、佳純の母に会いに行き、悩みを一気に解決する。愛子だけが、他者に拒絶されず、いい方向へ問題を転がす器用な人なのは、他家から嫁いできて米田家の血が流れてはいないからであろうか。ただSNSをざっと見ると視聴者のなかには愛子のマイペース過ぎる言動が受け付け難い人もいるようだ。それに、困ったことを彼女が解決してしまう万能キャラのような位置づけになっているようなところもある。それはさておき、愛子の助言に背中を押されたのは結だけではない。 聖人は、孝雄に対するアプローチを変更し、靴の修理を頼むことで、孝雄に生きがいを思い出してもらおうと試みる。靴屋が開店休業状態であることが気になっているのだ。歩は墓参りをやめない宣言。自分の真紀への思いはそれだけ強い。 まあ、正直、聖人と歩とふたり体制でこられると、孝雄は追い詰められた気持ちになってしんどいのではないかとも思うのだが……。 とかく「たすけあい」は難しいものである。たすけていることで自己満足に浸ることなく、相手に何をすればいいか適切な「たすけ」を見極めないといけない。そうでないと、ともすれば逆に相手を傷つけてしまうことになる。 真のたすけあいを未だ知らない米田家の人たちが、悩みながら、理想の「たすけあい」=「支えあい」を探っていく姿を見て、私も歳末、たすけあいの達人になりたいと思う。 聖人が、自暴自棄になっている孝雄の心が落ち着くことを押しつけることなく、「いつまでも待つ」という意味で靴の修理を頼んだことは印象的だ。聖人は「たすけあい」の秘訣をすこし学んだのだろう。
木俣冬