水没の危機迫る島国ツバルを、ドメイン「.tv」で救え! 日本人写真家・遠藤秀一の奮闘録
その頃(98年)、日本からツバルまではフィジー経由で行くのがもっとも効率的だった。しかし、直前の「招待」だったためエアチケットは取れず、彼は羽田→名古屋→グアム→トラック→ポナペ→コスラエ→クワジェリン→マジェロ→タラワ(キリバス)→フナフティ(ツバル)と、何地点も経由してやっとツバルにたどり着く。 「途中で飛行機のエンジントラブルに見舞われたこともあって、日本を出てからツバルに着くまで、なんと2週間もかかってしまいました(笑)」
「神様からの贈り物」で救われた財政難
やっとのことでツバルに着き、参加したミーティングには、イギリス、香港、アメリカなどから人びとや企業が集まっていた。有名なところではYahoo!も参加。そして、遠藤さんは、「あなたは提案者の中でもかなり早いほうだったので、プレゼンテーションを最初にやらせてあげるね!」と、遠藤さんはツバル側から言われたという。 「ミーティングのあとに入札が行われ、FAX参加していたカナダの企業が50億円で10年間の運営契約を落札しました。でも結局、この会社は支払いができず、アメリカの企業が同額で権利を買い取りました」
ツバルは、これによって50億円という巨額のお金を手にし、さらに毎年、売り上げの5%の収入も得られることになった。ちなみに、「tv」は、televisionの略として世界的に通用するワード。したがって、.tvのドメインは、世界中のテレビ局がこぞって使用権を取得したが、他にも、さまざまな業態で使用されている。 「国の収入は漁業権の販売と国際社会からの支援が主で、入ってくるお金は少なく、財政難に見舞われていました。国連の年会費さえ支払うことができなかったのですが、.tvの売却で得た一部を充てることで、国連加盟を果たせたのです」 この資金は、空港や学校、インフラなどの整備にも活用された。 「最初に入った50億円の一部で、首都フナフティがあるフォンガファレ島の道路を舗装しました。当時、ツバルの首相は、.tvのことを『神様からの贈り物』と呼んでいたんです。ただ皮肉なことに、そのせいで車が増え、二酸化炭素の排出量が増えてしまった……。私の提案は、.tvで得た収入を気候変動防止につかうことでしたが、残念ながら、別のところにつかわれてしまったんですね……」
だが、トップレベルドメインが.tvだったおかげで財政難から回復したこと。また、国連に加盟することで、COP(気候変動枠組条約締結国会議)で意見を言える立場にもなったことは、紛れもない事実。ツバルにとって、.tvは、思わぬところから降って沸いた宝物であることは、間違いないだろう。 ――次回では、ツバルを水没から救う活動をお届けします―― photo:Shuuichi Endou. text:佐藤美由紀