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NVIDIAによるArm買収報道、真実なら“無謀”

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EE Times Japan

 NVIDIAが、Armを買収するための協議に入っていると報じられている*)。もしこれが真実ならば、この動きは無謀と言う他ない。現在の、そして潜在的なArmライセンシーから否定的な反応の火種となり、長期的にはNVIDIAとその株主にとって逆効果になるだろう。 *)編集注:NVIDIAは2020年8月3日時点で、特にコメントやリリースは出していない。  NVIDIAがこのような動きを検討している理由は明らかである。NVIDIAの市場価値は、1999年1月の株式公開以来、最高水準にまで急上昇し、世界第1位の半導体サプライヤーであるIntelの時価総額を上回っている。高騰した株価、低い借入金利、強力なキャッシュポジションを活用して、市場を定義する主要な買収を行うことは、通常は理にかなっていることだ。  NVIDIAは、GPUセグメントで圧倒的な地位を占めており、ゲームおよびビジュアル・コンピューティング市場、AI(人工知能)、自動車、クラウドおよびデータ・サービス、ソフトウェア開発、デザイン・エンジニアリング、自律マシンおよびその他の激しいアプリケーションでOEMの寵児(ちょうじ)となっている。160万人以上の開発者が登録しており、多くの人から好意的に見られている。  その“善意”を賭けようとでもいうのだろうか。ソフトバンクからArmを買収することで、NVIDIAの製品ベースに、重要なCPUのインテリジェンスと所有権が加わることになるが、それ以外に大きなメリットがあるとは考えにくい。  NVIDIAは、多くの競合他社のレーダーの下を飛ぶようにして見事に成功した。低い売上高ベースから急速に成長し、2020年1月26日に終了した会計年度の売上高で110億米ドルを記録した。2021年度の売上高は前年比35%増の147億米ドルになると予想されていて、これは同社の時価総額における大幅な増加を正当化している。前四半期末時点で約155億米ドルという強固なキャッシュポジションと、約20億米ドルという低水準の長期債務が相まって、同社は投資コミュニティーの寵児となり、サプライヤーや機器メーカーパートナーにも慕われている。  そうした地位を、台無しにしたい人間などいるだろうか。筆者は、NVIDIAがArmを買収するためのキャンペーンをリードしている人間が誰であろうと(もし、報道が真実ならばという前提だが)、どうか冷静になり、考え直すことを願っている。この件は、将来的に大きな問題を引き起こすであろうことが予測できるからだ。  NVIDIAの競合は、これまでNVIDIAが参入していなかった分野で既に確固たる地位を築いている半導体メーカーばかりで、NVIDIAを“ライバル”とは見なしていなかった。だが今、IntelやAMD、Xilinxなど多くのメーカーは、既にNVIDIAが想定以上に大きな“頭痛の種”になる可能性があると考え始めている。  これらの企業は全てArmから技術ライセンスを受けており、(何度も言うが、もし報道が真実で)買収が成功した暁には、NVIDIAにロイヤリティーを支払わなければならない。AppleやHP、Googleなど、大小数十社の半導体企業、ソフトウェアベンダー、デザインハウス、機器メーカー各社が、NVIDIAに支配された新しい世界に自身を閉じ込めていることに気付くかもしれない。NVIDIAはこれらの企業に対抗する準備ができているのだろうか?  それだけではない。NVIDIAには潤沢なキャッシュはあるが、Armは決して安くはない。ソフトバンクは2016年に320億米ドルでArmを買収したが、現在はより高い買収額になるだろう。NVIDIAが、300億米ドル以上の追加資金を全て現金で調達できる可能性は低い。つまり、買収するなら、現金と株式の組み合わせ、または全株式取引を意味しており、ソフトバンクは今後もNVIDIAの評価額が上昇し続けることを期待して歓迎する可能性がある。ソフトバンクが他の要件のために資金を調達しようとしていることを考えると、このようなシナリオは考えにくい。  NVIDIAのプレジデント兼CEOのJensen Huang氏は、これまで半導体市場で行われてきたM&Aを凌駕(りょうが)するような大成功を期待しているのかもしれない。もし、500億~600億米ドルのArm買収が成功すれば、業界最大のM&A案件となる。しかし、それはHuang氏のプロフィールにはそぐわない。同氏は何度か転職を繰り返してきたが、1993年のNVIDIA設立以来、安定した経営を続けてきた。胸を張るような取引は、Huang氏らしくない。  もちろん、Huang氏とNVIDIAの取締役会には他のアイデアがあるのかもしれない。NVIDIAとArmが連携することについて、誰も考えついていないようなビジョンを持っているのかもしれない。だがいずれにしても、特定の分野から出てくるであろう激しい反発や規制など、乗り越えなくてはいけないハードルは、かなり高い。たとえ米国の規制当局がすぐに承認しても、とりわけ中国が温かい反応をするとはとても思えない。英国ですら、Armが大西洋を越えることには気が進まないかもしれないのだ。  そうなれば、各規制当局による審査は数年に及び、ArmとNVIDIAの両方がダメージを受け、顧客は恐れをなし、NVIDIAの時価総額は下がることにもつながりかねない。NVIDIAによるArmの買収は、臆測の域を出ないうちに、全くの白紙に戻した方がいい案件なのではないだろうか。 【翻訳、編集:EE Times Japan】

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