令和の主役!エースの階段上るカープ・森下暢仁/川口和久WEBコラム
森下ワールドにワクワク感
低迷を続けたカープの中で、希望の星となっているのが、新人の森下暢仁だ。 大瀬良大地、野村祐輔を故障で欠いた投手陣の中で、唯一規定投球回にも到達している。 10月24日、俺はRCC中国放送の仕事でDeNA─広島戦(横浜)の解説をしたが、森下は1失点完投で9勝目。DeNA戦は初勝利、これで5球団すべてからの勝利になる。 新人王争いでもライバル・戸郷翔征(巨人)をすべての数字で上回った。 試合の感想は一言、「言うことなし」だった。 状況は完全にアウェーだった。 球場は、ほぼ横浜ファンで埋まり、ラミレス監督の退任会見が試合後にあることもあって、佐野恵太こそ欠いていたが、セ・リーグ最強の横浜打線は、いつも以上に闘志にあふれていた。 これを森下は完全に手玉に取る。 初回二死からロペスに日米2000安打を許したが、ヒットはわずか4本。一度も先頭打者を出していない。 もちろん真っすぐの球威は素晴らしかったが、驚いたのは投球術。今の球界でトップクラスといってもいいんじゃないかな。まるでベテランみたいな、したたかなピッチングだった。 しびれたのが四番・オースティンの2つの三振だ。内角ストレートを効果的に見せて、最後は外のストレートと変化球のコンビネーションで打ち取っていた。 彼の思惑どおりの料理。解説していても、わくわくするようなピッチングだった。 ただ、試合自体は完全にカープの負けパターンだった。 打線はそれなりにヒットを打っていたのだが、最後の一打がない。再三のチャンスを凡打でつぶし、1対1のまま進んだ。 8回も簡単に二死になって八番の菊池涼介。はっきり言えば得点の匂いはしなかったが、菊池がどん詰まりのレフト前ヒットで出塁し、ディレードスチールで二塁へ進んだ。 その後、打席に入ったのが森下だった。 森下はプロではヒットはほとんど打っていなかったが、この試合は2回にもセンター前を打っていたし、打撃が悪くないのは分かっていた。 ただ、こういう場面で新人投手が簡単にヒットを打てるとは思えない。それでもRCCだから、ここは盛り上げなくちゃ、という思いもあって、こう言った。 「僕が広島時代、点が取れないときに、あるコーチにこう言われたんです。 『わりゃのお、みんな打てんのじゃ。そういうときは自分で打って勝て!』って」 いわゆる昭和の野球だが、昔はエース級の投手はみんな打撃がよく、最後は自分が打って決める試合も珍しくなかった。阪神時代の江夏豊さんがノーヒットノーランで、自分でサヨナラホームランというとんでもない記録もあるしね。 そしたら森下はアウトコースのスライダーをライト前ヒット。菊池がホームにかえって2対1とした。 昭和の逆転劇を令和の新人がやってのけた。鳥肌が立ったよ。 その後がまたいい。 森下がベンチに向かって笑顔で両手のガッツポーズ。これで広島ベンチはお祭り騒ぎになった。 森下の持つ天性の明るさも感じたシーンだ。エーターテインメント、まさに森下ワールドだった。あの日、球場に来ていたカープファンもたまらなかったと思う。 お立ち台では「残り登板2、3試合だと思うが、全力で新人王を狙いたい」とこれも爽やかな笑顔で話していた。 小顔でスレンダーな爽やかな男前は、今のカープの主力だと堂林翔太くらいかな。 昭和のカープとも平成の3連覇時代ともまた違う、新しい令和カープの主役が誕生した、と思った。
週刊ベースボール