【現場から】韓江氏がスウェーデンで受けた初めての質問…受賞の所感ではなく「戒厳」だった
6日(現地時間)、スウェーデン・ストックホルム・アカデミーで開かれた韓国人小説家の韓江(ハン・ガン)氏の記者会見で、最初の質問をしたのは韓国の記者ではなくスウェーデン司会者だった。司会者は韓氏の冒頭発言を誘導しながら「皆が心配している質問」で記者会見を始めると話した。 3日に発生した韓国の非常戒厳事態に対する質問だった。ノーベル文学賞受賞発表以降、初めて開かれた記者会見だっただけに、明るい質問で始まるほうがよかったが、韓氏は韓国の政局に関連した質問に答えなければならなかった。現場にいた韓国記者団の心が重いのもまた同じだった。 10日、ノーベル賞授賞式が開かれたストックホルム・コンサートホールには韓氏の受賞を祝おうと僑胞も足を運んだ。全羅南道長興郡(チョルラナムド・チャンフングン)から派遣された祝賀使節団は祝福横断幕と太極旗を持って寒さ厳しい街頭に出てきた。祝福ではなく糾弾を選んだ僑胞もいた。 コンサートホールからわずか600メートル離れた広場では僑胞が参加した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領退陣集会が開かれた。喜びと怒りが1カ所で渦巻いていた。祝福側だと言っても心が軽かったはずもなく、集会に出た人々もまた、祭りに灰をまく格好になるのではないかと苦心したことだろう。 韓氏は記者懇談会で『菜食主義者』青少年禁書指定問題についても詳しく説明した。普段あまり感情を表現しない韓氏が静寂を破って「有害図書という烙印を押されて廃棄されることは、本を書いた人間としては胸が痛いこと」と話した。会場は水を打ったように静まり返った。 韓氏と韓国に対するスウェーデン国民の関心は高かった。現場の反応を取材するために街頭に出た記者に、韓国の政治的状況はどうか、韓国で韓氏の本がなぜ議論になるのかを尋ねるスウェーデン国民が少なくなかった。 ノーベル文学賞のアンダース・オルソン審査委員長は中央日報紙とのインタビューで「韓国の政治的状況に関するコメントは拒否する」としながらも『菜食主義者』に対する意見を明らかにすることは躊躇(ちゅうちょ)しなかった。「一部の性的な描写だけで全体作品を貶めてはならず、そのような描写さえも主体ではなく客体としてのみ存在する主人公ヨンヘを表現するための文学的道具」というのが彼の説明だ。 ストックホルムの司書教師も同じ反応だった。教師らは「読むな」とか「成人になったら読め」というやり方よりも、青少年が本の脈絡を理解して適切に解釈することができるように教育的な指針を提供することがより良い方向だと話した。暴力的あるいは性的な描写が作品でどのような役割を果たすのか説明し、作品を批判的に読む方法を教えなければならないという主張だ。特に教師らは、青少年にも自身の経験と成熟度により作品を自ら選択して解釈する権利があると強調した。 尹大統領は12日国民向け談話で非常戒厳は野党に対する警告だったとの趣旨のメッセージを再び出した。政治的難局を打開するために戒厳を宣言したというあきれる発言に国民は茫然自失した。 考えが異なる人々を暴力で踏みにじる野蛮を克服し、対話と妥協を重視する民主的価値を定着させるためにどれくらい多くの人々が血を流しただろうか。考えが異なるほど、葛藤が大きくなるほど、心を開いて対話をし、折衷点を求めなければならないという原則が作動しなければならない場所は政界だけではないだろう。『菜食主義者』青少年禁書論争のように社会的合意を成すための努力よりも「赤い紙」を前面に出す社会的風土もまた、別の形態の暴力かもしれない。ノーベル文学賞ウィークはそのような暴力が韓国社会で相変らず作動していることを感じた時間だった。