松山英樹、“10度目”のマスターズは「ピースがぜんぶハマれば」…17年夏から遠ざかるPGAツアー優勝、追い求める“理想のカタチ”とは
決勝ラウンド進出を逃した小平智は、悔しさを抱えて練習場に向かった。 時刻は午後6時を回った頃。広大なドライビングレンジに選手は他に2人しかいなかった。 【写真】10年前、マスターズで19歳松山英樹が浴びた特別な喝采《よみがえるローアマ獲得の偉業》 打ち込みの最中、「おつかれさまです」と声がかかった。振り返った先にいたのは松山英樹のバッグを担ぐ早藤将太キャディ。練習用のボールを補充しに来たところだった。 マスターズを翌週に控えたバレロテキサスオープン、2日目のことである。 実はこの日、松山は朝のうちにスタートして午後1時にはプレーを終えていた。昼食をスナックで済ませ、1時間ほど仮眠を取ってからずっと練習していたという。 同試合の試合会場となったTPCサンアントニオには期間中、出場する選手関係者が多く宿泊するホテルが併設されている。マスターズを見据え、この大会に初めて出た松山は「最高の練習環境? いや、良くない。やりすぎちゃう」と“警戒”もしていたのだが、ホントに球を打ちまくった。3月に始まったサマータイムの恩恵にもあずかり連日、日没間際の午後8時前まで……。 その前の週(マスターズの2週前)、同じテキサスで行われたWGCデルテクノロジーズマッチプレーで松山は週末の決勝トーナメントに残れなかった。だがその土曜日もコースに姿を見せ、試合に出る選手たちからは離れた打席で練習、練習。パッティンググリーンはひとり占め。黙々とボールを転がした。
今年でマスターズは10回目
大学2年生で初出場し、ローアマチュアを獲得した2011年大会から今年でちょうど10回目の出場となるマスターズ。2月に29歳になり、20代として迎える最後のマスターズ。その直前の様子は、とても「調整」と呼べるものではなかった。 2017年8月にPGAツアー5勝目を挙げてから、手が届かないタイトル。松山は今、6勝目はもちろん、その先を見て課題に取り組んでいる。 今年キャリアで初めてコーチと契約した。重要課題であるパッティングへのアドバイスも受けながら、ショットでスイング改良を本格化させた。ドライバーショットではかねて目指してきたドローボールの習得がターゲット。もちろん今までもドローは打てたのだが、彼自身が“理想とする軌道”を追い求めている。 「試合期間中、こんなに練習する選手を見たことがありません」 2月に合流した目澤秀憲コーチは他に指導する河本結、有村智恵らの研究熱心ぶりも認めながら、そう言った。 だが、それは彼らにとっては必ずしも誉め言葉ではない。練習という手段が目的化しないのが松山でもある。世間が、なにより自分自身が求めているのは好結果に他ならない。 マスターズを数日後に控え、松山は少し疲れた表情で話し出した。 「一日、一日で『よし、できた』というのと、『ダメだあ』というのが極端で。『0点か、80点か』と変わる日が続いている。80点から0点になると、マイナス50点くらいになったように感じて気持ちが落ち込む。その繰り返し。だんだん……傾向みたいなものは見つけられているから、ピースがぜんぶハマれば……って感じなんですけどね。なかなかハマらない」 打席に2種類の計測機を置いて、数値化されたショットそのもの、スイング、クラブの軌道など、ポイントを絞って確認していく。目澤コーチの仕事は目下、松山が持つ、言葉では表現しづらい「感覚」を、分析結果や理論で裏付けしながら検証すること、理想のカタチへの方向付けをすることにありそうだ。 練習場で傍から見れば良いショットが出たようで、本人は大きくため息をついている。また、その逆もある。簡単に解決しそうなチューニングではない。 「(目指すスイングが)『できない』とは思わない。今までやってきたことと繋がっている部分もあるし、まったく新しいこともある。そこで(試合では)なかなか思うようなプレーができていない。もちろん良いときはあるけれど、回数を増やさないと、安定しないと勝てない」 内容と結果が伴うときを待つ日々は長く、少々ツライ。 マスターズ直前、そのバレロテキサスオープンで松山は結局30位に終わった。 実戦機会を増やすべく、3月に入ってから出場を決めた試合だった。なにか確信めいたものを得るには至っていない。収穫を問われ、「球をいっぱい打てたこと、ボールをいっぱい失くしたことじゃないですか」と周囲を笑わせた。 その中でも、5アンダーで回った初日のプレーには頷けた。2021年は予選通過圏外で第1ラウンドを終えた日が4試合あり、スタートに鈍さがあった。「1日だけでも、できたのはすごく大きい。自分のやっていることで良い結果が出たのは今年に入ってなかった」と明るい材料にした。 スイング改良に注力する反面、変化もある。昨年途中まであれだけ頻繁にテストしていた1Wは使うモデルを替えず、調整はヘッドのごく繊細なマイナーチェンジにとどめている。また、パッティングにも一定の向上を感じてきてもいる。