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世界最高峰のサーフィンツアーを制した男、五十嵐カノア──オリンピックでは、僕がエアーを決めて、ファンがワーッと盛り上がる

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GQ JAPAN

2019年は、五十嵐カノアにとって飛躍の年だった。世界最高峰の大会で、念願の初優勝。そして東京オリンピックのサーフィン競技に向けて、日本代表の座に大きく近づいた。けれどもさらなる高みを目指す彼にとって、これはほんの通過点に過ぎない。 【写真を見る】東京オリンピックを控えた五十嵐カノア

帝王との口論、そして和解

2019年5月25日、サーフィンの歴史が変わった。トップ選手が全11戦を戦うWSL(ワールド・サーフ・リーグ)のCT(チャンピオンシップ・ツアー)は、世界一のサーファーを決めるツアーだ。バリ島で行われたCT第3戦で、五十嵐カノアが日本人として初めて優勝したのだ。ちなみに、日本人がCTに参戦すること自体が快挙である。カノアは「朝、起きたときに友だちから“今日は勝つから集中して“というメッセージがいっぱいあって、そういうエネルギーがあったのかな」と振り返る。 カノアは準決勝で、11度も世界王者に輝いている“帝王“ケリー・スレーターと対戦した。ケリーはカノアが小さかった頃からのアイドルで、スポンサーが同じだった時期もあることから、ゴルフを教わるなど師匠のような存在だという。 「ケリーが“お前、邪魔したじゃん!“みたいに怒ってきて、邪魔なんかしてないよ、おじさん、なに言ってんの? ってケンカのようになって(笑)。普通はヒートが終わると握手をして互いを讃えるんですけど、あの日のケリーは“ふんっ!“って感じで上がって行っちゃったんです。そうしたら次の日に長いメッセージが来て、『あんなに勝ちたいと思ったのは久しぶりで、すごくおもしろかった、ありがとう。僕もリタイアしないで続けていこうと思った』と書いてあって、すぐに返信ができないくらいのインパクトがありました。次の次の日だったかな、やっと電話をして、ありがとうと伝えられたんです」

CTで優勝するという偉業を達成しながら、「パーティなんてしたくなかった」と言うあたりに、カノアというアスリートのストイックさが表れている。 「第3戦に勝った時点でワールドタイトルのランキングが総合2位に上がったんです。毎日ジムにトレーニングに行くんですけど、勝った翌日はいつもよりジムに行きたい気持ちが強かった。モチベーションが上がって、もっと練習したくなったんですね」 これからはワールドタイトルを目指して戦うカノアであるけれど、2020年に関してはワールドチャンピオンよりゴールドメダルが大事だときっぱり。 「サーフィンが初めてオリンピックの種目になるということは、まだサーファーで金メダルを取った選手はいないということ。しかも日本で開かれるというのは僕にとってすごいタイミングで、英語で言うと“made for me“という感じです」 カノアは常々、自分はプレッシャーを力に変えることができる選手だと語っている。東京オリンピックで受けるであろう、周囲からの期待や重圧も力に変えることができるだろうか。 「むしろ、プレッシャーがないと力が出ないんです(笑)。サーフィン競技の会場になる千葉県・一宮町の釣ヶ崎海岸は、スポットがビーチに近い。だから、スタジアムみたいにファンが近くで観られるはずです。ファンとつながる感覚が好きなので、僕がエアーを決めてファンがワーッと盛り上がる、オリンピックをそういう大会にしたいと思いますね」 ファンとつながりたいという気持ちは、彼のインスタグラムにも表れている。そして、自分を知ってもらうために好きな音楽やファッションを丁寧に発信する背景には、プロのアスリートとしてサーフィンの認知度を上げたいという思いがある。 「サーファーはもちろん、サーファー以外にも認められたいです。サーファーというとヒッピーっぽいビーチウェアというイメージで、それもすごく好きなんだけれど、海を離れたときはいい洋服を着て、子どもたちの憧れの存在になりたい。だから朝起きて、まずパソコンでチェックするのがファッション情報で、次が波のコンディションです(笑)」 サーフィンと縁がない人を感動させるために、カノアは勝ち方にもこだわりたいという。 「勝つのはあたりまえという感じにしたいですね。テニスのロジャー・フェデラーのようにエレガントに格好よく勝って、インタビューでもきちんと自分の考えを伝える。そんなプロフェッショナルなアスリートになることが目標です」 釣ヶ崎海岸の大観衆の前で華麗にエアーを決めて、堂々とインタビューに答える。そんなカノアの姿が、いまから目に浮かぶ。

五十嵐カノア プロサーファー 1997年生まれ。両親とともにカリフォルニアに移住、3歳よりサーフィンを始める。2012年にはUSA Championship U-18を史上最年少の14歳で優勝する。2016年に史上最年少でCTデビュー。以来、毎年参戦。2019年は1戦を残してランキング第6位につける。

文・GQ JAPAN編集部

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