障害者の「性の介助サービス」を無料で提供する意外な理由
坂爪 はい。有料にしてしまうと風営法で「性風俗関連特殊営業」(注3)と位置づけられてしまうんです。性風俗関連特殊営業には「広告を出してはいけない」などさまざまな規制があるために、サービスの継続が困難になってしまいます。そのため現在の運営費用は寄付金と他の事業収入で賄っています。 注3 性風俗関連特殊営業とは、都道府県公安委員会へ「性風俗関連特殊営業」として届出を出している事業者のこと。ソープランド、ファッションヘルス、デリバリーヘルスといった性的接触をするサービスや、ストリップ、出会い喫茶などといった店舗も同じく風営法という法律の規制の下での事業であり、さまざまな形態・業態を含んでいる。 大川 他の事業ではどんなことをされているのですか。 坂爪 障がい者の性に関する書籍を出版したり、研修や講演などを行ったりしています。専業スタッフは私だけですが、10~20人ほどのチームで事業を行っています。 大川 射精介助サービスをされるスタッフにはどんな方が多いのでしょうか。 坂爪 看護師や介護士の方が多いですね。エッセンシャルワーカーとして、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種は優先的に受けられています。 ● 「ウチは風俗店ではありません」 射精介助スタッフの報酬額は? 大川 そうした方々にはどのくらいの報酬が支払われているのでしょうか。 坂爪 時給ベースで3300円です。実際のケアは30分前後で終わることが多いので、スタッフに支払うのは1回でだいたい2000円くらいですね。スタッフを派遣する際の交通費は利用者さんに負担をしてもらっています。 大川 エッセンシャルワーカーの現状としてはかなり厳しいですね。公的機関から補助金などは出ていないんでしょうか。
坂爪 厚生労働省に提言をしたことはありますが、その時は「現場の理解が得られないのではないか」という理由で話を進めることができませんでした。しかし、将来的には介護保険などの保険が使えるようにして、日常生活に必要不可欠なサービスとして定着させたいと考えています。 大川 ホワイトハンズのサービスは全国どこにいても受けられるのでしょうか。 坂爪 はい。ただ、利用者さんには基礎疾患をお持ちの方も多いため、コロナ禍の今は要望があってもなかなか訪問することが難しくなっています。 大川 むしろコロナ禍で行動制限がある時のほうが性的欲求は高まる気がします。 坂爪 その通りです。コロナ禍で外出できないなどのストレスが溜まる一方で、射精を自由にしたいと思う方がたくさんいらっしゃいました。ニーズはすごく高まっているのに、今は思うように動けていません。そこは悩ましく申し訳ない気持ちですが、今後は感染リスクに気をつけながら徐々に再開していきたいと考えています。 ● 障害者の性欲までもケアする 必要があるのか?誰がやるのか? 大川 そもそも坂爪さんは何をきっかけにホワイトハンズを始められたのでしょうか。 坂爪 大学時代にジェンダーを研究するゼミ(注4)に入ったことが大きなきっかけでした。東京には性風俗のお店がたくさん存在していたので、それを研究してみようと考えたんです。 注4 東京大学で上野千鶴子ゼミに在籍。上野千鶴子は、フェミニストで社会学者。2011年、東京大学大学院人文社会系研究科教授を退官。