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シニア猫と過ごす限りある時間を大切にーー『じじ猫くらし』が描く、愛おしい日々

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リアルサウンド

 いつか来る“別れの日”が怖い……。歳を重ねる愛猫を目にすると、年々そんな思いが強くなっていく。白髪が目立ち始め、寝ている時間が増えてきた愛しい存在と、あとどれくらい一緒にいられるのかを、つい考えてしまう。 【画像】オビ付き書影はこちら  だが、家族である私たちには、いつか迎える“その日”にただ怯えるのではなく、「今してあげられること」がたくさんあるはず。『じじ猫くらし』(ふじひと/KADOKAWA)は、そんな気持ちになれる一冊だった。  本書はTwitterやPixivを中心に、多くの猫好きの心をわしづかみにしている大人気作。出会って12年のおじいちゃん猫との“じじ猫くらし”には、当たり前すぎて見過ごしてしまうような幸せの形がたくさん描かれている。 ■何気ない幸せが心に染みる「じじ猫くらし」  作者のふじひと氏はある日、ドラッグストアの窓に貼られていた里親募集を見て、1匹の猫を家族に迎え入れ、12年間、愛おしい日々を積み重ねてきた。  2人の日常は、微笑ましいの一言に尽きる。例えば、聴力の良さを活かし、帰宅時に必ず玄関先で出迎えてくれる愛猫に対してふじひと氏は謎の対抗心を燃やし、「猫にバレたら負けチャレンジ」を決行。ブラッシング時には、抜け毛を丸めてにおいを嗅ぎ、愛猫の存在を噛みしめる。  こうしたエピソードは猫飼いである自分の日常と重なる部分が多く、ニヤニヤさせられた。猫がいてくれるからこその楽しみが、私たち猫好きにはたくさんあるように思う。  四季の移ろいだって、猫がいるからよりしみじみと味わうことができる。綺麗な落ち葉を見つけた時には愛猫に見せたいと思うし、日向ぼっこをする姿を目にすることで春の気配を感じる。季節の変化や時代の流れに思いを馳せる時、私たち猫飼いの傍らにはいつも必ず、自由奔放な愛猫が寄り添ってくれているのだ。  猫がいる日々が「日常」になると、愛猫が“いて当たり前の存在”の思えてしまう。けれど、失う前に、その尊さに気づきたい。そう思わせてくれるのが、ふじひと氏が一度、実家を出て、猫と離れ離れになった時のエピソード。  家族にかわいがってもらえるから、自分がいなくても愛猫は大丈夫。そう思っていたのに、実際、離れてみると、自分のほうが“いない生活”に耐えられなくなってしまったそう。そこで、実家に荷物を取りに帰り、猫補給することに。  すると、家族から告げられたのは、猫も“いない生活”を寂しがっていたという事実。自分が出て行ってからご飯を残すようになり、置いていったぬいぐるみと寝たり、夜に鳴きながら探していたりしたことを聞いたふじひと氏は自分と同じように猫にとっても、傍で寄り添い合える生活が当たり前のものになっていたことに胸が熱くなった。  動物の感情など、本当のところはその動物自身にしか分からないものだ。いくら研究で心の仕組みが明らかになったとしても、それが本当に正しいのかは誰も証明できない。でも、一緒に暮らしていると、猫だって人間と同じように別れを悲しんだり、愛する人のそばに寄り添える喜びを感じているように思える瞬間が多々ある。人と猫の間にはたしかに絆や愛に近いものが存在するよう気がするのだ。  だから、“ただここで寄り添い合える今”を、もっと大切にしていきたい。うちに猫がいるという幸せは当たり前ではなく、かけがえのない奇跡だ。いなくならないと、その幸せの価値に気づけないなんて悲しいし、後悔が残るから、生きていてくれるうちから猫と時を刻める日常の尊さに感謝したい。  命の終わりが刻々と近づいてくるシニア期は複雑な気持ちになり、悩みも尽きないだろう。けれど、少しずつ老いていく愛猫の変化すらも大切に受け止めながら、この手で抱きしめられる時間を思いっきり大切にしていきたい。本書には、そう思わせてくれる温かさがあった。  なお、ふじひと氏の愛猫は本作執筆中に誕生日を迎え、13歳になったそう。歳を重ねるたびに増えていく思い出とかけがえのない今日を2人がどう大切にしていくのか、これからも見守りつつ、自身の愛猫の老いも愛していきたい。

古川諭香

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