菅総理の所信表明「グリーン社会実現」と「50年温暖化効果ガスゼロ宣言」がまったく中身がない理由
■グリーン公約の本当の狙いは「原発推進」か その判断は遅すぎるとはいえ「まあ悪くはない」という評価もできる。だが、所信の内容を見ると、暗澹(あんたん)たる気持ちになってしまう。 50年に温室効果ガスを国全体としてゼロにするのは、多くの先進国がすでに表明している目標だ。新味はない。問題はその実現方法だが、その中身はまったくないに等しい。 先進各国は、例えば非常に厳しい排ガス規制と超過達成クレジット取引、炭素税、石炭火力禁止、排出権取引、厳格な住宅省エネ基準、新車販売助成における厳格なエコカー選別、ガソリン・ディーゼル車販売禁止年次の設定などの具体策を導入しているが、菅総理の所信には、これらの具体的政策はまったくない。 書かれているのは、こうした現実に直接的効果を生む規制やルールではなく、「次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーション(技術革新)」という極めて不確実で痛みのない、ぬるま湯の政策だけ。これでは、まず50年ゼロは不可能といってよい。 さらに、驚いたのは、「世界のグリーン産業を牽引し」のくだり。 これまで『週刊プレイボーイ』のコラム『古賀政経塾!』でもたびたび指摘してきたとおり、日本のグリーン産業は世界から取り残されている。例えば、太陽光も風力も日本企業は世界のトップ10にも入れていない。電気自動車でもなんとか世界市場で競争できているのは日産だけ。トヨタはいまだに電気自動車を販売できない状況だ。 自動車用電池では、かつてパナソニックが断トツ世界一を誇っていたが、中国の自動車大手『CATL』にあっという間に追い抜かれ、最近では韓国LG電子にも猛追されている。電気自動車世界一位のテスラはパナソニック一社調達だったが、ついにCATLなどの中国企業からの調達を始めてしまった。 そして、もうひとつ注意が必要なのは、ほとんど実現する道筋が描けていないのに、無責任に50年ゼロを唱えたことの裏にある隠れた理由だ。 菅総理から見れば、「50年先のことなんか知ったことか」ということなのかもしれないが、その一方で、仮にその道筋を厳しく問い詰められたら、「原発をどんどん動かして足りなければ新設します」と切り返す伏線を張っているという可能性もある。