大切なものを手放す「死の疑似体験」で彼女が気づいた、“母親への思い”の裏側にあった本当の気持ち
残り4枚のなかに想定外のカードが入っていた清水さん(仮名)も、そのひとりです。 ■「一人旅」のカードが最後に残った意外な理由 20代の女性・清水さんは、物語の後半、残り4枚になったカードを改めてじっくり見つめ直しました。そしてそのうちの1枚「一人旅(知らないところへ)」に対して、「なぜこのカードが残るんだろう?」と、自分でも不思議に思う気持ちがわいてきたと言います。 清水さんは大学進学を機に故郷を離れ、都内で1人暮らしをはじめ、社会人になって数年がたっています。ときおり帰省をすると、母親とはお互いに近況報告をし合う仲のよさです。
じつはご両親は、清水さんが幼いころに離婚をされています。母親はエネルギッシュな反面、病気がちで、入院や手術をすることも珍しくありません。清水さんは「死の体験旅行」のなかで病気になる疑似体験をし、母も病で苦しかっただろうと思いを馳せます。そして、そんな状態のなか、母が自分を懸命に育ててくれていたことにも気づかされたと言います。 だから自分にとってもっとも大切なのは母親で、きっと最後のカードも「母」になるだろう。そう思っていたものの、残り少ないカードに入っていた「一人旅」が気にかかります。そして最後の1枚になったのも、その「一人旅」だったのです。
「病気がちな母親と、あえて離れる時間が大切だと思っているのかもしれない。一緒にいる時間が長いと、母親の体調が悪いとき、どうしても自分の心もざわついてしまい、『どうしよう』と混乱するような気持ちもわき出てきてしまう。だから少し距離を置いて、母と一緒に気持ちが落ち込んでしまうことを避けたいと感じているから、『一人旅』が最後に残ったのではないか」と、あとになって清水さんは口にしてくれました。 清水さんが「死の体験旅行」を知ったのは、勤めている会社の日報でした。キャリアアップに詳しい、信頼する先輩社員がこのワークショップを受講したことを書いていて、ついつい怠けがちな自分にとってなにが大切かを内省したいと思ったのだそうです。