見上愛「今年は、目まぐるしかったですね」平安貴族から令和の大学生まで演じ分ける秘けつは「私、全然(役に)のめり込まないんです」
女優・見上愛(24)の活躍が止まらない。今年5月に「不死身ラヴァーズ」で映画単独初主演を果たすと、現在はNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)、テレビ朝日系ドラマ「マイダイアリー」(日曜・後10時15分)に出演中。演技論から素顔まで―今を彩るヒロインに迫った。(田中 雄己) 【写真】見上愛&吉高由里子が「姉妹みたい」「ニコニコ中宮」 斜め向かいに座った見上の凜(りん)とした姿勢からは、上品さ、丁寧さ、そして風格すら漂ってきた。「今年は、目まぐるしかったですね。すごくいろいろな役を演じさせていただいて。いろいろな現場に行かせていただいて」。姿勢と同じようにきれいな言葉に、少し違和感を感じた。 3年前。今後の活躍に期待がかかる「ホープ」を紹介する企画で、二十歳の見上を取り上げた。当時からすでに映画に主演し、上半期だけで5本のCMに出演するなどしていたが、しぐさや振る舞い、全てが初々しかった。スイッチが入った撮影時こそ別人のようになったが、インタビュー中は「取材なんて恐れ多いです」「顔は普通だと思います。ちょうど良いのがいいんですかね」。口を大きく開けてケラケラと笑い、フランクな言葉を発した。 3年がたち、ドラマ、映画、CMと見ない日はないほどの“売れっ子”になった。そして、言葉もきれいになった。 「マイダイアリー」の話題に移った。男女5人の群像劇で、見上は実年齢と近い大学生、新社会人の役柄を演じる。 「今回は、5人の空気感に尽きますよね。実際にいるだろうなという空気感が流れることが、一番大事だと思ったので。セリフも実際に私たちが話す言葉ですとか、わざと倒置法を使ったりしていて。リアルな空気感が求められているかなと。自分の役をどう演じようかというより、5人の空気をどう良くすべきか。それが意識していた点です」 3年前も同じだった。自身の演技やセリフのみでなく、作品全体をふかんした上で、自身の演技を考える。変わらない視点に、うれしくなった。 「大学も演出家を目指すコースでしたので、昔の戯曲を演出家としての視点で読み解いていて。その癖が抜けないんじゃないですかね。意識していなかったですけど、きっと全体から、脚本ありきで物語をひもといて、役を演じていくタイプかな」 今と変わらない言葉が並んだ当時の紙面を見せると、大きな声を上げた。「懐かしい、懐かしい」「あの歩道橋だー」。素の声を発し、目を細めて懐かしんだ。 「当時は大学にも通っていて。『いつかは演出家もできたら』と話していましたけど、今すぐにやりたい気持ちは正直なくなっていて」。徐々に丁寧語から、フランクな言葉に変わり始めた。「大学卒業を経て、周りの友人も演劇系の仕事や一般企業に進んだりして。そういう姿を身近で見ているからこそ、片手間でやりたいとは言えなくなってしまって。以前は、何も考えずに『やりたいからやりたい』と言えたけど、今はそうではない。やるならもっと勉強して。演出をやられている方に失礼なく、恥じないようになってからかなって」 そう話したが、何かを「片手間」で行う時間は、ないだろう。現在は「光る君へ」では中宮・藤原彰子を演じ、「マイダイアリー」では大学生を演じている。日曜夜だけで、平安貴族から令和の大学生までを演じ分けている。 演技力の秘けつを聞くと、「私、全然(役に)のめり込まないんです」と大声でケラケラと笑った。「今年は、4作品同時に撮影している期間もありましたけど、全く大丈夫なんですよ。カットがかかっても、長く引きずることはなくて。10分でも眠ったら、リセットできるので。『恋愛バトルロワイヤル』(Netflixシリーズ)では感情的なシーンが続くことがあって。1日で何回も泣くシーンが入っていたんですけど、その時も休憩時間に眠ったら元に戻れるというか、リセットできて。睡眠さえとれば、全然大丈夫です」。あっけらかんと言ってのけたが、彼女の言葉を観察すると、そこに秘けつがあるように見えた。見上は脚本を「読む」ではなく「読み解く」と表現する。 「他の方がどれくらい読んでいるか分からないんですけど、1回目は全体を読んで、2回目は自分の役を考えながら、役の目的と障害を書き出すんですよね。作品にもよりますけど、どの役にも目的があって、それを達成するまでの障害がある。それを全シーン、台本の上の方に書き出す」 作品を理解し、見る者を引きつける演技につなげる。デビューから5年。輝きは増し続けるが、目標も変わらない。 「いろいろな役をしたいし、いろいろな経験をしたい」。その言葉も、3年前と全く同じ。「そうなんですよ、本当に変わらなくて。こないだ誕生日の時に、中学・高校・大学時代の友人がサプライズで集まってくれて。信じられないくらいうれしかったんですけど、皆が『どこにいる見上でも変わらないんだね』と言ってくれて。良くも悪くも変わらずにいられているのかなって」 友人の顔を思い浮かべて一瞬、優しい表情になったが、「でも」と真顔で続けた。「変わらないでいようとは思っていなくて。来るべき変化もあると思う。でも、根底にあるモノだけは変わらないでいたい。大事な友達、家族が『それは、ちょっと違う』と思ったら、間違っているのだろうし。信頼している人から、信頼される人でいたい」 さまざまな経験を重ね、言葉はきれいになったが、根底は変わらない。インタビュー後。3年前は「蚊に刺されちゃったんですよ」とふくらはぎを指さして笑ったが、この日は、撮影で両手を広げて「すしざんまい」のポーズを披露。「これ、使われちゃったら、どうしよう~」と場を和ませていた。見上愛は、この先も変化を恐れずに、でも変わらずに突き進むだろう。 ◆見上 愛(みかみ・あい)2000年10月26日、東京都出身。24歳。19年に女優活動をスタート。21年12月の「衝動」で映画初主演。22年2月のTBS系「liar」でドラマ初主演。趣味は観劇、洋服作り、カメラ。身長161・5センチ。
報知新聞社