「裁判で森友文書改ざんの真実を」(相澤)「財務省は恥を知れ」(田村)
【対談・森友文書改ざんと財務省(上)】相澤・大阪日日新聞編集局長と田村・産経新聞特別記者
森友学園への土地売却を決済した財務省文書の改ざんをさせられた赤木俊夫さんが自殺する際、顛末を書いた手記を残した。残された妻、赤木雅子さんを励まし、公開に導いた大阪日日新聞の相澤冬樹記者と財務省と消費税を巡って対立した産経新聞の田村秀男特別記者に手記や赤木さんの起こした裁判の意味、財務省の問題点などを語り合ってもらった。 田村:手記とは別に俊夫さんが残したファイルがありますよね。それは開示されているんですか。 相澤:存否すら明らかにされていません。赤木雅子さんに向かって俊夫さんの上司の池田靖さんが認めているんです。しかも、雅子さんが聞いてもいないのにこんなものがあるんだというのですから、間違いのない事実です。 改ざんのビフォー・アフターが書かれているという話です。改ざん前はこういう文章で、それを誰の指示でどういう理由でどういうときにやったというのが全部書いてあって、改ざんの一連の経過がすべてわかるようになっていると池田さんは話しています。誰の指示かが書いてあるから責任がものすごく明らかになるはずなんです。 田村:それはものすごく重要な話ですよね。検察もそれを押収していながら、何のアクションもしない。(財務省に)潔さがいっさいないのがたまらないよね。 相澤:日本の人たちの義侠心に訴えたいですね。これをほっといていいんですか、と。赤木雅子さんは、真実知りたいと損害賠償請求の裁判を起こしましたが、最大の新しい事実は証人だと思います。佐川さんとか財務省近畿財務局の人たちを証人申請して法廷に呼び出して、真実をしゃべらせることができるかが焦点になってくると思います。 田村:これ、民事ですよね?その場合、裁判所が認めないといけないですよね。 相澤:はい、それには世論が大きいと思っていまして。真実を赤木さんに知らせたい、そのためには佐川さんたちが法廷に出てきて真実を証言すべきだという世論が盛り上がれば、裁判所は証人申請を認めると思うんです。 田村:財務省は手記の存在を知っていたんでしょう? 相澤:公式には知っていたとは言ってませんが、財務省の調査報告書を改めて読んでみると、うまく書いている。あからさまに矛盾、嘘がないように、ごまかしごまかし、ぼかしてぼかして、矛盾するところはないんです。俊夫さんが亡くなったなど書いていない事実はあるし、個人名もそもそも伏せています。俊夫さんは全ては佐川理財局長の指示だと書いていますけど、調査報告書には、彼が主導したと書いてあります。主導って何をしたの、という具体的なことは書いていない。 手記が出たときに麻生さんは「(調査報告書と)矛盾していない」と述べた。矛盾しないように書いたんです。ということは知っていた。手記の存在が万が一表に出たときに嘘を書いていると言われないように官僚が巧みに書いたんだと僕は思います。これだけ見事に矛盾しないように書くなんて知っていたとしか思えない。絶対最後まで認めませんでしょうけど。 田村:財務省の関係者はみんな出世しちゃったよなあ。矢野康治官房長も主計局長だ。 相澤:事務次官コースですね。太田充さんは酷いですよ。俊夫さんの手記で、国会で嘘に嘘を塗り重ねてと言われていた人が、何の説明も言い訳もなく事務次官になるなんて。役所としてどうかしていると思います。 田村:太田さんは改ざん後の国会答弁が問題なのですね。 相澤:改ざんに関与してないけれども、改ざんの後始末に関与していて、そこが俊夫さんが手記のなかで嘘に嘘って書いている。例えば、平成30年2月の国会答弁で、新たに国会に開示した行政文書について「開示請求のなかで改めて確認したところ、法律相談に関する文書が確認された」と答弁しているが、俊夫さんは手記のなかで「法律相談の記録など内部検討資料が保管されていることは、近畿財務局のすべての責任者は承知していた」と明らかにしています。 さらに、手記では「太田理財局長が前任の佐川局長の答弁を踏襲することに終始し、国民の誰もが納得できないような詭弁を通り越した虚偽答弁が続けられているのです。現在、近畿財務局内で本件に携わる誰もが虚偽答弁を承知し、違和感を持ち続けています」と太田氏の虚偽答弁をはっきり指摘しています。 それが出世したのは、この事件で彼が泥をかぶって役所と政権を守ったからだと言われていますね。組織のため、あるいは上の人のために嘘をついていると偉くなれるという悪い前例を積み重ねているので、この国から正義がなくなる、卑怯者と嘘つきの国になってしまいますよ。 田村:日本国の国民として怒りを感じますね。恥を知らなくなったのか。 相澤:恥を知れという言葉は今回とても重要な言葉だと思っていて。義という言葉がありますよね。これはまさにね、人の道にもとるというか、赤木雅子さんが、真実を知りたい、再調査してくださいというほうに義があると思うんですよ。だから、義侠心というか、みんなが義を持って助太刀いたすと、日本人がみんな、赤木雅子さんに義があるじゃないかと、助けてくれたら、世の中変わると思って、この本『私は真実を知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)を出しています。 田村:本当に、義の心というのは、権力者から時として失われることが多いんです。その言葉を思い起こさせてもらったのは、台湾の李登輝さんが亡くなられましたよね。あの人は日本の義を重んじておられましたよね。 李登輝さんの言葉を聞くたびに恥ずかしいなあと。官僚と安倍政権があるけれども、我々はそういう人たちを結果的に選んでいるわけです。メディアそのものが義を重んじる、この義のためにはこれを追及する、なぜ日本のメディアがそうならないのか、弛緩しきっちゃっている、危機感がない。これはなんだと。文書改ざんなんて国際社会に対して恥ずかしい。 相澤:日本政府が出すものは信用できないということですからね。 田村:司法で裁きもしない。国家犯罪、官僚の犯罪、日本の根幹が腐っているということを追及していない。 相澤:実際、取材してきて思いますけど、財務省がおかしなことをやっているということははっきりしている。そこに政権がどう関与しているのか、そこがわかっていないんですよね。これから調べないといけないことで、結局なにがあったのか、そしてこの本に戻るわけですけど「真実が知りたい」ですよね。 田村:アメリカやヨーロッパのどこかの国だったら 内部告発が財務省のなかからも出ておかしくないと思ったんだけど、そういうことはなかった? 相澤:近畿財務局の内部と思われるものからはありました。俊夫さんの同僚が異例の出世をしているという内容で、全部書いてあることは事実でした。 田村:財務省がもうおかしくなっているんですね。何度か産経新聞にも財務省の幹部が来たんだけど、もうやめた次官の岡本さんが去年の5月に産経新聞のトップや編集幹部、論説陣が出席する社論会議にやって来て、その場で消費税増税反対論の私と議論したいという。岡本さんは私相手に乗り込んでくるなんてあっぱれと思ったのですが、結果は失望でした。私は経済データをもとにいかに今、消費税の増税をやると景気にとってまずいか、経済が落ち込んでは社会保障財源確保、財政健全化どころではなくなるということを述べたのですが、彼は反論しようともしない。ひたすら頭を下げる。どうか消費税率の引き上げを認めてくださいとね。とにかく議論を避けるんですよ。 以前にも、消費税率を8%にあげるとき、僕は招かれざる客だったんだけど、編集局のトップが田村も呼べということで同席したんです。財務省の主計局と主税局の審議官クラス(局次長級)がいた。私は1997年度の消費税増税以来、日本経済が慢性デフレに陥り、財政収支が悪化してきたか、データをもとに説明したのですが、かれらは一切応えようとしない。 そのくせ、財務省の幹部たちは消費税の増税を行えば世の中が、景気がよくなると、政治家やメディアの論説委員に吹き込んで、そう言わせ、書かせる。そんな証拠があるなら見せてほしいところです。財政再建を言っている連中、その後ろには財務省がいるのだけれど、何がよかったのか全然語ることがない。この国は思考停止状態になっているなと思う。 <次回に続く> ■対談者プロフィール 田村秀男 1946年、高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、70年、日本経済新聞社に入社。大蔵省、金融担当などを経て、ワシントン駐在、香港支局長。産経新聞に転じ、産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員。『財務省「オオカミ少年」論』(2011年産経新聞出版)など著書多数。最新作は『習近平敗北前夜 脱中国で繁栄する世界経済』(石平氏との共著/ビジネス社)。 相澤冬樹 1962年、宮崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、87年にNHKに記者職で入局。現在は大阪日日新聞編集局長・記者。著書に森友事件の取材とNHKを退職するまでに経緯を書いた『安倍官邸VS.NHK』(文藝春秋)、森友決済文書の改ざんをさせられ自殺した赤木俊夫さんの手記を元にその後の財務省のやり方まで記録した『私は真実が知りたい』(赤木雅子さんと共著/文藝春秋)がある。 ■構成・神田桂一(ライター) 1978年、大阪生まれ。関西学院大学法学部卒。一般企業勤務から週刊誌『FLASH』の記者、ドワンゴ『ニコニコニュース』記者などを経てフリー。カルチャー記事からエッセイ、ルポルタージュまで幅広く執筆。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社=菊池良と共著)など。今年、台湾の紀行ノンフィクションを刊行予定。