【紀州のドン・ファン地裁判決】殺害の“凶器”覚せい剤はなぜホンモノと認定されなかった…証人尋問で2人の売人の証言が食い違った“裏事情“
和歌山県田辺市で酒販売業等を営む会社経営者だった野崎幸助さん(当時77歳)が多量の覚せい剤を経口摂取したことにより急性覚せい剤中毒で死亡した【紀州のドンファン】事件(2018年5月)――。死亡した野崎さんに覚せい剤を摂取、殺害したとして殺人と覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われていた元妻・須藤早貴被告(28)の判決公判が12日、和歌山地裁で行われ、無罪判決が言い渡された。
被告が売人に注文したことは認めるが
ポイントとなったのは、“凶器“となった「覚せい剤」の真贋だ。判決では野崎さん殺害に使用したとされる覚せい剤については「間違いなく覚せい剤であったとは認定できない」との見解を示した……。 司法担当記者が判決内容について説明する。 「判決では早貴被告が18年3月下旬ごろに野崎さん宅に滞在し始めて以降、野崎さんの求めに応じて性行為を試みたがうまくいかないことが何回か続いたため、4月1日ごろに野崎さんから(性的行為のために)〝覚醒剤を買ってきてください〟と頼まれたとの被告の供述に触れ、〝売人を介し注文したところまでは認める〟としつつも、被告が〝本物の覚醒剤を入手したとまでは認められない〟としました」
食い違った2人の売人の証言
裁判所はなぜ「本物の覚醒剤を入手したとまでは認められない」としたのか。野崎さんからの依頼により、早貴被告がインターネットで探した「覚醒剤の売人らの証言の食い違いが大きい」と先の司法担当記者は続ける。 「判決では早貴被告から電話で注文を受け、覚醒剤を用意したAと、Aとともに早貴被告にパケに入った覚醒剤を手渡したBの供述についても言及しています。 Aは3g15万円、Bは4~5gで10~12万円と、2人の供述には価格や量に食い違いがありました。さらには早貴被告が覚醒剤を受け取ったとされる4月7日当時はAに覚醒剤を入手できるルートはなく、Aは〝覚醒剤ではなく砕いた氷砂糖だった〟と否認していました」 なぜ2人の証言に食い違いが生じたのか。 仮に早貴被告に渡したものが覚せい剤であると証言した場合、Aは自身が処罰される可能性がある。そのため、虚偽供述をしたことも考えられる。 一方のBは覚せい剤を早貴被告に渡す前に「目視で中身を確認した」とし、本物である旨を供述している。 裁判所は当時Aが警察から内偵捜査を受けており、そのことをAは認識していたとし、「(リスクがあるにもかかわらず)わざわざ自宅に赴き氷砂糖が入っているパケを交際相手に取りに行かせたうえに、氷砂糖に過ぎないパケの指紋を交際相手がわざわざふき取ってからAに渡した」(同前)とされるAの供述内容の信用性についても疑問を呈した。