『ビリー・アイリッシュ: 世界は少しぼやけている』で明かされた、唯一無二のカリスマの素顔と家族愛。
昨年の第62回グラミー賞で、史上最年少となる18歳で主要4部門を含む5冠に輝いたビリー・アイリッシュ。そんな彼女の初となるドキュメンタリー映画『ビリー・アイリッシュ: 世界は少しぼやけている』が、Apple TV+で配信中だ。「全編がお宝映像」と絶賛するLA在住のD姐が、本作の見どころを語る。
“ビリー・アイリッシュ”という社会現象はいかにして生まれたのか。
11月末のサンクスギビングという祝日は、クリスマスを控えたアメリカ人にとって年に一度の親戚一同が集まる行事でもある。私がサンクスギビングにしか会わない姪っ子は、小学校高学年の時からビリー・アイリッシュに夢中で、ビリーは彼女の世代の“希望”だと言っていた。このサンクスギビングではディナー前にたいていのアメリカ人は神への感謝を述べるものだけど、ついに一昨年のサンクスギビングで中学2年生の彼女は両手を組み目を閉じて、神ではなくビリー・アイリッシュに感謝と祈りを捧げた。そんな娘を横目にしながら母親(ちなみに小学校教諭)は、「彼女の周りはみんなこうなのよ」と言って、まさに「Bad Guys」の”Duh”フェイスをしながら頭を抱えていた。 ビリーの人気、いや存在は社会現象である。事件と言ってもいい。今までも時が変わるたびに社会現象的な人気を得てきたアーティストはいくらでもいたが、ビリーは「別格中の別格」だ。実は歌唱力抜群、圧倒的に可愛い、曲がセンスあり過ぎ、とにかくクール……言葉にすると安っぽくなってしまう理由でビリー・アイリッシュという事象は解明されないし、彼女が10代で築き上げた世界観は実力、才能といった概念だけでは証明しきれない。そんな(少なくとも一人の14歳のファンから神から崇められる存在になった)ビリー・アイリッシュの初ドキュメンタリー映画が『ビリー・アイリッシュ: 世界は少しぼやけている』である。
2019年3月29日にリリースされたデビューアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』がいかに制作されたか、そして明かされる彼女の素顔……。といっても、ビリーの素顔は普段我々がメディアで目にする姿と変わらない。聡明で真っ直ぐで自己をしっかりと持った、とてもではないけれど、当時16・17歳と思えない一人の女性。このドキュメンタリーを見れば、ビリーを神格化しているファンがどれだけ多いことかわかるだろう。 しかしながら、元々「有名になりたい」という願望と真逆なモチベーションの持ち主であるビリーが、急激な早さで世間の注目を浴びる中での葛藤や、持病であると明かしているトゥレット症候群の発作が出てしまうシーンさえも赤裸々にしている。「私は孤独だし、みじめに思う」「なぜハッピーな曲を書かないのか聞かれるけれど、私は幸せだと思ったことがないから。むしろ闇を感じるから、そういう曲を書くのは当たり前でしょう?」「孤独な思いを曲を書けば、孤独さが軽くなるように感じるから」と語り、自殺願望があったことを明かす。