「クリミア問題」何をもって独立なの? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
ロシアの軍事的拠点
クリミアはウクライナ東端で、北部をウクライナ、東部をロシアと接する半島です。ウクライナと違って1877年から翌年までの露土戦争でオスマン・トルコから奪取して以来、ロシアの軍事的要となってきました。特に半島南部のセバストポリはロシア-ソ連-ロシアと続く黒海艦隊の母港でロシア最大級の軍事的拠点です。 「セバストポリ」という言葉は英仏などと1853年から56年まで戦ったクリミア戦争での大激戦地であり、1941年からのドイツ軍との一大攻防戦を演じた場所で、いわば「ロシア人の琴線」です。セバストポリは自治共和国とは別の特別市でウクライナの管轄。したがって冒頭に述べたクリミア独立は正確にいうと「クリミア自治共和国とセバストポリ市の独立宣言」です。
なぜウクライナ帰属に?
それほど大切な半島がなぜロシアでなくウクライナ帰属になっていたかというと1954年にソ連のフルシチョフ党第1書記(当時)がウクライナ領に変更したから。出自から「ウクライナ出身」といってもいい彼は当時独裁者スターリン死後のソ連共産党権力闘争のまっただなかで、故郷に恩を売っておこうという腹づもりがあったのでしょう。当時のウクライナはソ連の一部にすぎなかったので安全保障面に気を使う必要もありませんでした。ただ親ロシア感情の強いクリミアの人々は憤激し、かといってソ連の強権体制下では直接モノも言えないのでアネクドート(小話)の形で地下に広がりました。 「フルシチョフはバカだ。フルシチョフはバカだ」。男はすぐに捕らえられ、懲役20年の刑に処せられた。その1年分は最高指導者を侮辱した罪、19年分は国家の機密を漏らした罪……
ソ連崩壊で問題化
バカだと叫んだ男の予想通り91年のソ連崩壊とウクライナ独立で大問題へと発展します。ウクライナがそう出るならばクリミアも独立だという宣言は以前にもありました。そこでウクライナとロシアが折り合って ・ロシアはクリミアをウクライナ領と認める ・クリミアは国家とほぼ同等の権限(議会や政府の設置など)を持つ自治共和国とウクライナ憲法が保障する ・セバストポリはロシアが借り受ける と妥協します。 「琴線」のセバストポリはもちろん、ここを足だまりにする黒海艦隊を失ったらロシアの面目丸つぶれ。黒海にはロシアからの独立運動やロシアへの帰属活動が盛んで紛争が起きやすい南カフカス地域が面しており、地中海に通じるボスポラス海峡にも接しているので。 したがって欧米寄りのウクライナ暫定政府の誕生でロシアが一番不安なのはここへの艦隊駐留権の喪失です。そこにクリミアのロシアへの帰属感情が合わさって独立宣言となったのでしょう。