「アイムボス」発言よりも深刻な「基準のブレ」 Jリーグの笛に感じる海外レベルの"判定バランス"【前園真聖コラム】
鹿島ポポヴィッチ監督の広島戦後の発言が話題
9月14日に行われたJ1リーグ第30節、鹿島アントラーズvsサンフレッチェ広島は2-2の激しい試合になった。優勝戦線の直接対決ということで試合はヒートアップする場面もあり、後半23分には主審に抗議を続けていた鹿島のランコ・ポポヴィッチ監督にイエローカードが出される。そのポポヴィッチ監督は試合後の記者会見で主審を批判し、ジャッジやレフェリーについての問題提起を行った。元日本代表MF前園真聖氏も思うところがあるという、Jリーグのジャッジの「基準」について話を聞いた。(取材・構成=森雅史) 【実際の場面】「よく笛吹かなかった」 Jリーグ主審が見せたゴール直前の好ジャッジの瞬間 ◇ ◇ ◇ 鹿島のランコ・ポポヴィッチ監督が広島戦のあとに記者会見で行った発言が話題になっているようです。 ポポヴィッチ監督は試合中に警告を受け、会見では「基準がブレていた」「(レフェリーから)『アイムボス』と2回言われた」と語っていました。もしも「アイムボス」と言っていたとしたら問題だと思いますが、本当にそうだったのかハッキリと分かりませんから、今のところなんとも言いがたいところです。 ただ、「基準がブレていた」という点においては思うことがあります。「ブレていた」というのは1試合の中で基準が変わっていた(と思えた)ということでしょうが、僕はそれ以上にJリーグの笛は海外に比べて基準がブレているのではないかと思うのです。 今年、こんな例がありました。 6月22日に開催されたJ1リーグ第19節、東京ヴェルディvs名古屋グランパスの後半17分、右サイドをドリブルで突破しようとしていた東京Vの木村勇大が引きずり倒されました。ところがこの試合のレフェリーだったイングランドのダレン・イングランド主審は笛を吹かずに流しました。するとそのボールを拾った翁長聖がそのままドリブルを続け、最後は見事なループシュートで決勝ゴールを奪ったのです。 また9月14日に行われた第30節、FC東京vs名古屋のセサル・ラモス主審は接触プレーがあっても流そうとしましたが、選手のほうがボールを止めていました。ラモス主審は2022年カタール・ワールドカップ(W杯)の準決勝、フランスvsモロッコや2024年コパ・アメリカ(南米選手権)の非常に激しい試合になった準決勝、コロンビアvsウルグアイを担当していた人物です。 イングランド主審にしてもラモス主審にしても、「この程度の接触だったらプレーを流して次を見よう」「この程度の接触だったら大丈夫」という感覚だったのでしょう。ところがJリーグのレフェリーは、全員とは言いませんが、接触プレーに対してこの2人の基準に比べるとすぐに笛を吹いてしまう印象がある、つまりあまり激しくない接触でも試合を止めてしまっている気がします。 日本が世界と戦っていくのなら、この基準をしっかり合わせていくことが必要ではないでしょうか。そして流れをどうコントロールするかという技術的なポイントを向上させ、流してプレーさせるところと笛を吹くところのバランスを取っていってほしいと思います。 そうすることで、スピーディでデュエルの激しさやインテンシティーの高さも上がり、Jリーグの面白さはもっと向上するはずです。そういう基準の中でも日本人選手はしっかりやっていけるというのは、今、ヨーロッパで活躍している選手たちを見れば明らかです。Jリーグは判定の基準をもっと上げていってほしいと思います。 [プロフィール] 前園真聖(まえぞの・まさきよ)/1973年生まれ、鹿児島県出身。92年に鹿児島実業高校からJリーグ・横浜フリューゲルスに入団。96年のアトランタ五輪では、ブラジルを破る「マイアミの奇跡」などをチームのキャプテンとして演出した。その後、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、湘南ベルマーレの国内クラブに加え、ブラジルのサントスFCとゴイアスEC、韓国の安養LGチータースと仁川ユナイテッドの海外クラブでもプレーし、2005年5月19日に現役引退を表明。セカンドキャリアでは解説者としてメディアなどで活動しながら、「ZONOサッカースクール」を主催し、普及活動を行う。09年にはラモス瑠偉監督率いるビーチサッカー日本代表に招集されて現役復帰。同年11月に開催されたUAEドバイでのワールドカップ(W杯)において、チームのベスト8に貢献した。
前園真聖 / Maezono Masakiyo