壊れなくなったクルマ 意外に奥深い「ねじ」の話
ねじの真価は軸力にある
さて、軸のテンションで部品を固定するという理屈が分かったところで、もう少し深く見てみよう。ボルトは金属でできているので、一見変形しないように見えるが、実はくさびに引っ張られて微小に変形している。ではその変形で何が起きるのだろうか? ボルトの頭に近い側では雄ねじと雌ねじは強い力で押しつけられている。しかし次の山ではボルト素材の伸び分だけ、押しつけ力が減ってしまう。これが繰り返されて行くと、ボルトの先端部に近づけば近づくほどボルトの伸びは大きくなり、軸力に貢献しなくなる。図4に模式的に表してみた。つまりボルトを長くして山の数を増やすことでどこまでも軸力を増やすことができるかと言えば、そうはならない。だからボルトの長さはボルトの素材の弾性と必要な締め付け力によって、適正な長さが存在し、それ以上長くする意味がなくなる。部品のねじ締結において重要なのは、結局のところ、いかにして必要な軸力を得るかということになるのである。
エンジン内部の高精度が求められる組立部品においては、100分の1ミリレベルの管理が必要なケースがある。もっとも荷重が高く、精度が求められるのはクランクシャフト周辺の軸受けだ。ここでは高い精度と強い面圧を支えることが要求されるため、摺動部でありながらボールベアリングは使えない。実は歴史上、クランクシャフトをボールベアリングやニードルローラーベアリングで支持したこともあったのだが、耐久性に問題が出て、いまではプレーンベアリング一択になっている。プレーンベアリング(平軸受)とは平板を半円形に曲げた形状であり、クランク軸を上下から2つの板で挟んで保持する。一般的にはトリメタルと呼ばれる三層構造の金属部品だ。 プレーンベアリングとクランシャフトの間に潤滑油による油膜を作って、フローティングすることで保持する。イメージ的にはクランクシャフトが油に支えられて浮いている状態になる。どうしたらクランクシャフトが浮くのかと言えば、軸受けと軸の間のクリアランスを極限まで減らすのだ。ちょっと想像して欲しい。直径10センチの軸受けの中に、直径1ミリの軸を置いたら、その接触面は限りなく点接触になる。これがもし9.99センチの軸ならばどうだろう? 接触面が大きくなることが想像できるだろう。つまり軸受けの精度を高めないと油膜で浮かせる保持方法が実現できないのだ。