<スマートスタイル>センバツ平田 第2部 野球体験会の真価/下 幼児に教わった「前向き」 /島根
◇手作り、優しく分かりやすく 1月26日の日曜日、平田高(出雲市)の体育館。地元の幼稚園や保育園の子どもたち60人を前に坂田大輝選手(2年)が「分からないことがあればお兄さんたちに遠慮なく聞いてください。野球を楽しみましょう」とあいさつ。子どもたちが一目散に駆けだして野球体験会が始まった。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 この日のメニューは坂田選手のほか三島毅輔選手(2年)、清水涼太選手(1年)の3人から成る部内の「普及班」が中心となって検討。「投げる」や「打つ」の基本動作から試合形式の遊びまで盛り込んだ。子どもたちは100点、50点、10点と色分けされた的や、数字が書かれた四角い的を狙って夢中でボールを投げ込んだ。 部員がトスしたゴムボールをスポンジ製のバットで打ってもらうコーナーでは、空振りを繰り返す子どもに井口恭太選手(2年)が「横向きで振ると当たりやすいよ」などとアドバイス。優しく、分かりやすく教えながら、場を盛り上げるのにも慣れている部員の姿が目立った。 平田が野球体験会を始めたのは植田悟監督が就任した2017年。部員たちはチラシを手作りし、平田町や斐川町の22の幼稚園や保育園に配ってきた。各園に“出張”もしてノウハウの引き出しを増やし、19年12月には平田を含む出雲市内の8高校と三刀屋高(雲南市)が連携した教室も初開催。こちらは出雲市や雲南市などから、5歳から中学2年まで計約700人もの参加があった。 保護者からの評判は上々。1月26日に長男大粋(たいき)さん(6)が参加した出雲市斐川町直江の浜村ひかりさん(31)は「家の周りには思い切りボールを打てる場所がないし、友達同士で遊ぶ良い機会になっている。親としてありがたい」と喜び、「息子は元々野球に興味があるみたいだったが、更に興味が湧いたみたい」とほほ笑んだ。 普及班班長の坂田選手は「できなかった子ができるようになる瞬間を見られるのが楽しい」「『野球を続ける?』と聞いたら、『続ける』という返事ももらえた」とやりがいを語る。 見逃せないのは、自分たちのプレーへの好影響だ。「ナイスボール」「ナイスバッティング」などと幼い子どもたちを励ます声が、現実の試合のピリピリした場面でよく飛び交うようになってきた。「ベンチから盛り上げる姿勢がチームに根付いた。常に前向きな雰囲気が漂っている」と坂田選手。教えるだけでなく、むしろ幼児から教わった点だろう。 植田監督は「すぐさま野球人口の増加に結び付くかは分からないが、野球文化の発展につながると願って地道な取り組みを継続したい」と力を込める。【鈴木周】