恋する気持ちは1000年前も変わらない。一瞬でセンチメンタルな気分に浸れる!? “エモい令和語”訳の万葉集が凄すぎる【書評】
走り出したいような、泣きぬれたいような、悶々とした気持ちをもてあますのが、恋だ。そんな胸いっぱいの恋心をどうにか言葉にしようとしても上手くいかなくて歯がゆい。そんな思いをしたことがある人は、恋に溺れ、悩んだ先人たちの言葉を紐解いてみてはいかがだろうか。
「あ、この気持ち、分かる」と共感&胸キュンさせられるのが、ノベマ!第44回キャラクター短編小説コンテスト大賞受賞作『超新釈 エモ恋万葉集』(蜃気羊/スターツ出版)。万葉集を現代の恋愛に置き換えた、令和語のエモい超訳×イラスト集だ。「万葉集なんて何だか難しそう」と感じる人が多いだろうが、この本で描かれているのは、イマドキの恋模様。万葉集に描かれた恋の世界が現代の言葉に置き換えられ、わずか1ページの恋のお話になっている。 「そうは言ったって、難解な和歌が本当に令和語になっているの!?」と疑問に思う人も多いだろう。だけれども、この本で描かれているのは、まさしく令和の恋。たとえば、この本ではこんな恋の物語が描かれている。 皆人を寝よとの 鐘は打つなれど 君をし思へば寝ねかてぬかも 巻4 607 笠女郎 みんながとっくに寝静まったはずの時間に、 ようやくベッドに横になり、 Spotifyで君が好きだって言ってたロックを聴き、 穏やかに打つドラムビートを聴き、 長い夜を寝ようと努力してるんだよ。 ますらをもかく恋ひけるを たわやめの恋ふる心に たぐひあらめやも 巻4 582 大伴坂上大嬢 1軍で、モテる君がどうして、 地味な私のことを見てくれるんだろう。 私と付き合っても、きっと釣り合わないよ。 ただね、私は君以上に君のことが好きだと思うんだ。 息をのむほど美しいイラストとともに綴られる恋の物語に、思わず胸が高鳴る。それに、何よりも超訳がいい。まさか万葉集の訳に「Spotify」や「1軍」なんて言葉が登場するだなんて! 万葉集のエッセンスを現代の感覚に変換した内容であるため、すべてが完璧に正しい訳というわけではないだろう。だけれども、こうやってイマドキの世界に言い換えてもらうと、自分とは関係ないと思っていた万葉集の世界がグッと身近になる。いや、「身近になる」なんてもんじゃない。「私と同じだ」と思わされる歌だって少なくはない。 放課後のスタバ。君を振り向かせたくてスリコで探すヘアクリップ。思わずTikTokで検索した「失恋」の2文字。LINEの通話だけじゃ満たされず、半年後のLCCを予約する遠距離恋愛。fjkになった日からずっと恋焦がれている君のこと……。恋のはじまりから終わりまで、この本にはさまざまな恋の歌と、その歌をモチーフとした物語が綴られ、一瞬でセンチメンタルな気分に。「そうか、恋する気持ちは1000年経っても変わらないのか」「そんな恋心を描いた万葉集ってすごいな」――令和語に翻訳されたからこそ、そう実感させられるこの本は、今恋している人も、恋に悩んでいる人も、とにかくエモさに浸りたい人も、ぜひとも手にとってほしい1冊だ。 文=アサトーミナミ