「島が要塞化している」軍事強化が進む与那国島、“自立ビジョン”の実現を願う住民たちの思い
ミサイル配備、港の建設…軍事強化に懸念の声
一方で、与那国町長の糸数健一(いとかず・けんいち)氏は「この島に住む我々は、怖いのは中国だ」と語る。町長就任前には、自衛隊配備を求めるグループのメンバーとして、誘致活動を行ってきた。 「中台間の台湾の有事というのが最近取りざたされている。ギリギリ何とか間に合ったのか。日本政府・国家として、先島・与那国まで守るというメッセージが伝わったかと思う」(糸数氏) そして島は今、「ミサイルの配備計画」という大きな変化に直面している。配備について防衛省は防御のためとして「反撃能力の配備につながるものではない」と説明したが、住民からは「どんどん増強されて、私たちの生活圏・生活を脅かしている」といった不安の声が上がった。
さらに、港の建設計画も浮上している。空港も滑走路を延ばし、有事で軍事利用する特定利用空港・港湾への指定を検討していると見られている。田里氏は、島で軍事強化の動きが加速度的に進んでいる現状に、危惧を抱いている。 「今の緊迫した状態というのが、これから10年、20年、50年も続くのかと。抑止力を高めていくと。そうなると我々の子ども・孫たちはどうするのか。平和的空間を作る、安全を高めるのが政治・行政の仕事。しかし、現在やっていることは逆行している」(田里氏) 住民も「安全のための島づくりじゃなくて、危険を一つずつ積み重ねている。戦争への階段を一歩ずつ上がっているような状況が作り出されている。それ自体が問題」と訴えた。 島の軍事拠点化に懸念も募るなか、糸数氏は絶好の機会として港や空港の整備を国や県に求めている。「何でもかんでも自衛隊の増強、有事だと考えるのではなく50年に1度あるか100年に1度あるかのチャンスだと思っている。インフラ整備ということに関して」。
自衛隊配備問題を巡って、議会でも意見を戦わせる田里氏と糸数氏。そんな二人もかつて、同じ方向を向いていた。「自立ビジョン」の策定当時、糸数氏も農家代表として携わっていたのだ。糸数氏は今も台湾との交流実現について「諦めていない」と断言する。約20年前、市町村合併の議論を経て、自立ビジョンの策定に向かっていく当時の熱気を、田里氏の妻、鳴子氏はこう懐かしむ。「一つになれた。島がね」。