エミー賞を受賞したデザイナーが語る、『ザ・クラウン』で描かれたダイアナ妃の世界【年末年始に見たいドラマ】
数々の受賞歴を持つプロダクションデザイナー、マーティン・チャイルズにとって時代劇はお手の物(『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー賞を受賞)。 だが、50年間にもわたってストーリーが描かれるNetflixドラマ『ザ・クラウン』のようなプロジェクトは、彼のこれまでのキャリアの中でもっとも大がかりな仕事だ。 その仕事とは、ドラマが始まる第二次大戦直後の50年代からシーズン4が始まる80年代まで、シーズンごとに新しくやりがいのある課題が課せられ、視聴者が印象的な10年間から次の10年間へと巧く移行していけるようにすること。 【写真】年末年始に一気見したい! 『ザ・クラウン』について、あなたが知らなかった60のこと 「徐々に移行できるよう自分自身も学ばなくてはならない。なぜなら『ザ・クラウン』の前に僕がやっていた仕事は普通、2時間という作品(映画)の時間が与えられて、その中で一つの時代を扱い、車や大きなディテールを使ってかなり大胆にその当時を描くことができたからね」とチャイルズ。 「『ザ・クラウン』の場合はストーリーが半世紀以上にわたっているため、60年代をやったら、次は70年代という風に視聴者を一気に動かして行くのではなく、ディテールをかなり控えめにして、ストーリーを徐々に伝えていく必要がある。セットはストーリーが語られるペースに助けられる部分が大きい。 シーズン4の新しい時代をデュラン・デュランの曲やダイアナ妃のローラースケートシーンなどで初めて垣間見た時は本当にショッキングだと思う。だって『ザ・クラウン』ではそれまで決して見たことがなかったシーンだからね」
ダイアナ妃の世界を作り上げること
どのシーズンもそれぞれ困難はある。例えばシーズン3で描かれたアバーファン炭鉱崩落事故を覚えている? シーズン4はおそらくもっとも難しかったかもしれない。視聴者の多くがダイアナ妃の黄金時代を鮮明に記憶しているからというだけでなく、80年代だったからだ。 「僕は1980年代をフォトジェニックにするという重要な任務を自分に課したけれど、難しい」とチャイルズ。 「パロディーにせずに、印象的な多くの場面を取り入れて、あの時代を壮大なままに描かなければならない。そこで、1980年代をダイアナ妃の世界ということにした。そうすることで、王室のお城の中で彼女の新鮮な姿を見ることができた」 チャイルズは、60年代のインスピレーション源に『オースティン・パワーズ』を使わなかったのと同様に、彼が描く80年代は『ダイナスティ』とはかけ離れている。安易な定型表現を注意深く避け、ドラマが本当に50年間にわたって展開されていると感じられるようにデザインの傾向が徐々に変化していくようにした。 とは言え、当時流行していたクロームやレザー、ブラックステインドアッシュは彼の80年代の解釈にも入っているという。 ダイアナ妃が王室という新しい世界に移行していく時の緊張感を作りだすために、チャイルズが何をインスピレーション源にしたのか知ったら、読者は驚くかもしれない。 彼はお気に入りの監督の作品を数年おきに見返すのが好きで、当然のことながら、大好きな監督の一人はアルフレッド・ヒッチコックだという。 ヒッチコックのアイコニックな作品『レベッカ』を研究しながら、チャイルズはダイアナ妃が2番目のド・ウィンター夫人に似ていることを発見。ダイアナ妃が引っ越してきた時に、ヒッチコックの映画で描かれたのと同じように、迷子になったような、新しい家に圧倒されたような、落ち着かない感覚を彼女に持たせたかった。 そのため、彼は、宮殿の中に「ドキュメンタリーと言うより夢のような」特別のコーナーをいくつか作ったという。