「負けることは恥ではない」。寺地拳四朗が生涯唯一の敗戦で得たものとは?
「勝った瞬間はまず先に『よっしゃーっ! 加藤さん勝ったよ!』と思いました。次にお客さんに対して『応援してくださり、ありがとうございました』と(笑)。リングから見渡した観客席の景色は、泣いていたのではっきりは見えませんでした。再戦に向けて不安はありました。スパーリングでは出来た事も試合で出来るかどうかは違いますし。でも加藤さんと一緒に練習してきたことを全力で出すだけ。後悔しないようにやるだけでした。 試合前に加藤さんから『負けることは恥ではない』と言われた時、最初は意味がよくわかりませんでした。でもだんだん理解できるようになりました。初めて負けたことで、負けた人の気持ちもわかるようになりました。応援してくれる人たちに対する感謝の気持ちも、あの試合からより深まった気がします」 「拳四朗に限らず、選手に対しては技術よりも、人間的な成長を一番に考えます。人間性とボクサーとしての成長は繋がっていると思っているので、余計なお節介と思われるかもしれませんが、私生活についても口うるさく言います。人間的に成長すればボクシングは勝手に強くなりますからね」 と加藤。ボクサー拳四朗とトレーナー加藤。 いまふたりは新たな課題に向き合っていた。それはある意味、蜜月だった師弟関係を見直す取り組みでもあった。 ■寺地拳四朗(てらじ・けんしろう) 1992年生まれ、京都府出身。B.M.Bボクシングジム所属。2014年プロデビューし6戦目で日本王座、8戦目で東洋太平洋王座獲得し、2017年10戦目でWBC世界ライトフライ級王座獲得。8度防衛成功し9戦目で矢吹正道に敗れ王座陥落するも翌2022年の再戦で王座奪還。同年11月には京口紘人に勝利しWBA王座も獲得し2団体王者に。今年7月、フライ級転向発表し王座返上。今月13日、クリストファー・ロサーレス相手にWBC世界同級王座決定戦に挑む。通算成績24戦23勝(14KO)1敗 ■加藤健太(かとう・けんた) 1985年生まれ、千葉県出身。2005年三谷大和スポーツジムから20歳でプロデビュー。2006年東日本新人王トーナメントはスーパーライト級で決勝進出。右拳の怪我で1年間ブランクの後出場した2008年同トーナメントはライト級で準々決勝進出し、のち日本王座に就く細川バレンタインと引き分けた。網膜剥離を煩い24歳で現役引退。通算成績9勝(7KO)1敗1分。26歳で三迫ジムトレーナー就任。現在はチーフトレーナーとして名門ジムを支える。2019、2022年度最優秀トレーナー賞受賞 取材・文・撮影/会津泰成