「負けることは恥ではない」。寺地拳四朗が生涯唯一の敗戦で得たものとは?
拳四朗に、加藤の存在についてたずねると「ボクサーとしても人としても、なくてはならない存在」と答えた。 「加藤さんは、ボクシングについてはもちろんですが、生活面も厳しく助言します。ただ厳しいだけではなくて、言葉のひとつひとつが納得できるし、自分を成長させてくれる事ばかりです。本当、良い人に出会えたと感謝しています」 拳四朗にとって加藤はトレーナー以上の存在。拳四朗はボクシングを通して、加藤から人生そのものを学んでいる気がしていた。前回取材した際のあるエピソードを思い出した。 自身のベストバウトについてたずねると拳四朗は「矢吹選手とのリターンマッチ」と即答した。一度負けた相手に勝利できた事、ベルトを奪還できたことはもちろんだが、それ以上に、まわりに対する感謝を実感できた事が何よりも強く心に残った。 2021年9月22日、拳四朗は9度目の防衛戦で矢吹正道に敗れ、2017年5月20日にタイトル獲得し、4年以上保持し続けたWBCライトフライ級王座から陥落した。しかし試合中のバッティング問題で、拳四朗陣営からJBCに意見書が提出されるなど物議を醸した両者の対戦について、WBCからは異例のダイレクト・リターンマッチが認められた。再戦直前、加藤は拳四朗に「負けることは恥ずかしいことではない。ここまで頑張ってきたことが大切。もし負けたとしても、試合後の記者会見は堂々と受けよう」と助言した。 王座陥落時、加藤は負けたショックが大きく会見を拒否して逃げ去るように会場を後にした拳四朗の姿が目に焼き付いて離れなかった。加藤は当時、『拳四朗はボクサーとしては一流でも、人としてはまだまだ弱い』と感じ、再戦は、勝とうが負けようが関係なく、堂々とした態度で、取材や記者会見を受けて欲しいと願い助言した。 試合は挑戦者、拳四朗の3回1分11秒KO勝利。勝利の瞬間、拳四朗は加藤に抱き着き喜びを爆発させた。後にも先にも、拳四朗があそこまで感情をあらわにして喜びを表現した試合はない。