なぜ“排気量神話”は打ち壊されたのか? 小排気量でも十分パワーが得られる理由
フォルクスワーゲンのTSIエンジンを搭載した現行「ポロ」に世良耕太が試乗した。小排気量エンジン+過給機の組み合わせを世に広めたTSIエンジンの最新仕様はいかに? 【写真を見る】日本車とはやっぱり違う!? VWポロの詳細(18枚)
価値観を大きく変えたTSIエンジン
フォルクスワーゲン(VW)はガソリン過給ダウンサイジング・エンジンを送り出して排気量神話を打ち崩した。その昔は(今でも引きずっている人はいるだろうが)、排気量が大きいエンジンの方がエライとされた。1.0リッター3気筒より2.0リッター4気筒、2.0リッター4気筒より3.0リッター6気筒、3.0リッター6気筒より4.0リッター8気筒の方が胸を張れた。確かに、排気量が大きいエンジンの方が勇ましい音がしたし、馬力もあった。引き換えに燃費は悪かったが、気にする人は少なかった。 VWが2005年に「TSI」と名づけた過給ダウンサイジング・エンジンをゴルフに投入したことで、価値観が大きく変わった。排気量は小さいのに走りは充分で(力強いとまではいかない)、燃費が良かったからだ。VWがTSIを投入してからというもの、排気量の大小とエンジンの価値は必ずしも結びつかなくなった。むしろ、小さな排気量のエンジンで大きなクルマを動かす方がエライという風潮も一部では生まれている(メルセデスEクラスに1.5リッター4気筒ターボエンジンの設定があるのは、その象徴)。 当時のゴルフ(いわゆるゴルフV)は2.0リッター直列4気筒自然吸気エンジンを積んでいたが、VWはこれを1.4リッター直列4気筒直噴ツインチャージャーエンジンに置き換えた。ツインチャージャーとは、過給機を2基搭載しているという意味で、スーパーチャージャー(エンジンの動力で駆動)とターボチャージャー(排気のエネルギーで駆動)を指す。ターボは応答遅れ(ターボラグ)が発生するので、応答性を高めるために反応のいいスーパーチャージャーを組み合わせた。2008年に新型に移行したゴルフ(ゴルフVI)からはターボチャージャーのみのシングルチャージャーに一本化した。スーパーチャージャーの助けを借りなくても、応答性を高めることができたからだ。 排気量が3割も減ったエンジンを積んだゴルフはしかし、自然吸気エンジンよりも良く走って燃費が良かった。1980年代から1990年代にかけてもターボエンジンが流行ったが、あの頃のターボは高出力を狙っていた。ターボチャージャーで大量の空気をシリンダーに入れ、その大量の空気に見合った大量の燃料を噴いたので、高出力と引き換えに燃費が悪くなったのだ。 同じターボ過給エンジンでも、ダウンサイジング・ターボは高出力を狙わず、常用域のトルクアップを狙う。加速の鋭さや最高速を追いかけるのではなく、巡航スピードに達するまでの扱いやすさを重視した。ターボの使い方が控え目なのだ。だから、小さなタービン(排気側)とコンプレッサー(吸気側)で済み、エンジン回転が低い状態でも素早く過給が立ち上がる。