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スマホで途上国の失明防げ 慶大眼科トリオが簡易装置

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NIKKEI STYLE

高額な機器がなくても白内障など眼科診断に不可欠な画像を得られないか――。そんなニーズにスマートフォンの利用で応える技術を開発し、内外の注目を集める慶応義塾大学発のスタートアップ企業がある。中学時代から同級生の眼科医3人組が起業したOUI Inc.(ウイインク、東京・新宿)。代表取締役の清水映輔(しみず・えいすけ)さん(32)が描くのは「世界の失明を半分に」という夢だ。

■学校も職業も出向先も同じ

「三人寄れば文殊の知恵。実は起業するためのシーズ(種)があったわけではないが、3人でやれば何かできるのではないかと」。清水さんは2016年に起業した理由をこう語る。3人とは清水さんのほか、矢津啓之さんと明田直彦さん。矢津さんは「正しい医療知識と情報を一般の方々に普及させることで、効率的な医療システムを構築できないか」と考え、明田さんは「一眼科医として、できるだけ多くの患者さんに光と笑顔を届けられたら」と、熱意を共有していた。 3人は中学から慶応に入学し、大学卒業までの12年間を一緒に過ごした同級生。眼科医を目指したのも、東京歯科大学市川総合病院が出向先だったのも同じだった。 3人は親が医師ということもなく、医学部への進学は自らの意思で決めた。慶応義塾高校は1学年700人超の男子校、自由な校風と、「独立自尊」がモットー。ここで3人は互い触発し、切磋琢磨しながら、狭き門である医学の道へと進んだ。医学部を卒業し、初期臨床研修を終了した段階で、進むべき科も決まった。坪田一男教授が率いる眼科学教室が、チャレンジする医師を積極的にサポートする環境だったこともあり、3人そろって眼科の門をたたいたのだ。 「医師のキャリアは、一般的には勤務医か開業医など、選択肢は限られている。他に何かできないのかな」。最初は軽い気持ちで語り合った3人が出した答えが起業だった。慶大は医療系ベンチャーの創出・支援の旗を振り始め、医学部創設100年を迎えた2017年には、当時の岡野栄之学部長が「将来的にはベンチャー100社の設立につなげたい」と表明した。テクノロジーと医学を融合し産業を育成する方針は「実学の慶応」の精神にもかなう。 「起業しよう」で一致した3人だが、その時点で具体的なアイデアがあったわけではない。ヒントをつかんだのは3人が所属するNPO法人ファイトフォービジョン(東京・新宿)の海外医療支援活動だった。 3人はベトナムで白内障の手術などに無料で取り組んだが、驚いたのは現地の医師の診断方法だ。日本の医療機関では通常、目の水晶体などを精密に観察できる細隙灯(さいげきとう)顕微鏡を使うが、ベトナム人医師が手にしていたのはペンライトやスマホ。1台で数百万円するような高額な機器を、地方の病院にまで行き渡らせるのは難しい現実があった。 「スマホを使用している現場に最初は驚いたが、診断に必要な発光やカメラの機能はある。しかし、スマホの放つ光は眼科の診断に適切な光ではないし、画像もブレやすく、拡大すると細部がぼやける。これでは正確な診断は無理だ」。そう語り合いながら、起業のヒントが浮かび上がった。適切な発光と画像処理ができる専用デバイスを開発し、スマホに装着できるようにすれば、どんな場所でも簡単に眼の診断ができる。 ニーズがあるのはベトナムだけではない。英医学誌「The Lancet Global Health(ザ・ランセット・グローバル・ヘルス)」の報告によれば、15年の失明人口は世界で約3600万人とされ、およそ半数は白内障によるものとなっている。日本では短時間の手術で治るケースが大半だが、医療機器や医師が不足している途上国などでは極めて深刻な眼の病だ。 スマホによる簡易な眼科診断が普及すれば、位置情報などと結びついたビッグデータとなり「どの地域でどのような目の病気が多くなっているのかといった疫学的なデータが得られる」。人工知能(AI)を活用すれば診断支援もスムーズになり、医師不足を補える。

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