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酒で突然死 変わり果てた兄 絶ったつながりに後悔 コロナ禍で思う「誰かが見守れたなら」

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十勝毎日新聞 電子版

 3月下旬、アルコール依存症を患う吉田英一さん(47)=仮名=が北海道の十勝地方南部にある自宅で孤独死した。死亡から約1カ月後の発見。亡きがらは腐乱し、変わり果てた姿となっていた。妹の涼子さん(43)=仮名=は「死ぬまで状況を良くできなかった兄と、私たちきょうだいが悪い」と後悔した上で、「それでも誰かがもう一歩、兄の心に踏み込んでくれていたら…」と声を詰まらせる。新型コロナウイルス禍で人同士のつながりが細る今、その嘆きは心に重く響く。  「暗い部屋に充満した異臭を今でも思い出す」。帯広市に住む涼子さんが、英一さんが暮らすまちの警察から連絡を受けたのは4月18日。急いで警察署に駆けつけたが、死後1カ月が経過した亡きがらは本人確認ができる状態ではなく、遺体との対面はかなわなかった。英一さんの死をどうしても受け入れられなかった涼子さんは、警察に頼み込むと、翌日、兄の部屋に足を踏み入れた。  室内は悪臭で充満し、床には酒の容器が散乱していた。テレビ台の上には亡き両親の遺影。2011年に父、14年に母が他界すると、英一さんは実家を引き払って同じまちの公営住宅に移り住んだが、遺影と位牌(いはい)だけは大切にしていたようだ。  「仏壇にお供えのように置かれた経口栄養剤が、お酒を飲んでいない時の兄の優しさを語っているようだった」(涼子さん)。  死体検案書によると、死因は大酒家突然死症候群。アルコール依存症の患者が食事も取らずに飲み続け、心臓疾患などで突然死するもの。英一さんは孤独な生活が続く中、アルコール依存からとうとう抜け出せずに死を迎えてしまった。  ◇ ◇ ◇  「本当は人と関わりたいが、不器用なので人前でよく話せない。だから酒の力を借りてしまうけど、そのうち何をしゃべっているのか分からなくなる」  涼子さんが、兄と最後に言葉を交わしたのは3年前。英一さんが音更町の病院に入院し、アルコール依存症の治療を受けていた頃のことだ。本音を吐露した英一さんだったが、一方では病院から外出許可を得るため、1日に何十回も涼子さんに電話を繰り返した。  結果、涼子さん自身も体調を崩し、姉で長女の由衣さん(49)=仮名=と相談した上で、英一さんとの連絡を絶つことに。「もしも兄の身に何かあったら、姉妹で後始末をしよう」と覚悟だけは決めていた。  ただ、死に顔すら見ることができない結果になったことに、涼子さんは「本当に、誰も、何もできなかったのだろうか」との思いにさいなまれた。  兄が入院していた際、病院で行われたカンファレンスでは、医療機関だけでなく行政や地域も含め、英一さんの様子を定期的に見守る話が出ていたはずだった。  4月下旬、涼子さんはまちの福祉課を訪ねて担当者の話を聞いたが、事務的な対応が繰り返されるばかり。分かったのは、担当者が今年に入り、一度も英一さんに連絡を取っていなかったことだけだった。  ◇ ◇ ◇  後日、英一さんの部屋を片付ける中で出て来たのは、障害者グループホームの名前と連絡先が書かれたメモ。涼子さんは「兄の中にも『施設の世話になり、ちゃんと生きよう』という気持ちがあったのかもしれない」と感じ、改めて悔しくなった。  あれから3カ月が過ぎた今も「誰かが、ちょっと手を差し伸べていれば結果は違ったのでは」との思いが消えない。  「どうか人と人のつながりを絶たないで。たとえコロナの影響があっても、離れて暮らす人を気にしてあげて」(奥野秀康)

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