インフレが生む政治不信:ビットコインには追い風か【コラム】
かつて「グレートモデレーション(大いなる安定期)」と呼ばれる時期があった。 米連邦準備制度理事会(FRB)のポール・ボルカー元議長が、1980年代にアメリカのインフレを封じ込めた後のこと。欧米諸国は、年間の物価上昇率が平均して2%ほどという、予測可能で穏やかな物価の動きを伴った、心地良い数十年間を享受していた。 FRBの独立した通貨政策への信頼が高まり、強固なものとなっていき、その結果として、経済や株式市場が活況を呈するという、好循環へとつながっていたのだ。 時には、苦境もあった。とりわけ大きなものを挙げるなら、2000年のドットコムバブル崩壊と、2008年の金融危機。そして、持つ者と持たざる者の格差はますます広がり、ウォール街がその富を築き上げる基盤となった政治モデルに対する幻滅が生まれた。 それでも、経済関連の政策決定にもたらす圧力や不透明感を伴ったインフレが、過去の遠い記憶となったことは、経済拡大という船は常に、本来の針路に戻って進んでいったということを意味していた。 翻って今はどうか?物価上昇という現在の状況は、長期的なグローバル経済の展望にとって何を意味するのだろうか?そして、ビットコイン(BTC)にとっては何を意味するのだろうか? ビットコイン支持者たちは、BTCはインフレヘッジだと主張するが、ここ数カ月、ドル建てのBTC価格は株式市場の値動きと連動しており、インフレヘッジとしての地位を確立できるようなパフォーマンスをほとんど見せていない。 前述のような疑問に答えるには、持続的な物価の不透明感が、経済、そして政治の意思決定に与える影響を検討することだ。
不透明感の復活
3月のアメリカのインフレ率は8.5%。FRBがインフレ抑制のために22年ぶりの大幅利上げに踏み切る中、低所得者層だけでなく、あらゆる経済状態のアメリカ人が、何十年も直面せずに済んでいた経済的ジレンマに日々向き合っている。 将来的にさらに値上がりするかもしれないから、今のうちに新車を買っておいた方が良いだろうか?それとも、不況が差し迫るとあちこちで言われていることを考慮して、自分の雇用の安定を心配するべきなのか?社会全体に広がるこのような不透明感は、経済全体に大きな影響を及ぼす。 インフレ状況でも儲けられる方法を編み出した、最高に抜け目がなく幸運な人以外のすべての人にとって、このような不透明感は居心地の悪いものだ。そして当然ながら、政治にも影響が出る。 1期で終わりを迎えたカーター大統領の任期は、1980年のインフレによって絶望的な宿命を負わされていた。アルゼンチンなど、インフレに見舞われた国では、絶え間ない政権交代も見られる。 多くの人はすでに、バイデン大統領もカーター元大統領の二の舞になるのでは、とみている。最新の調査では、バイデン大統領の支持率は41.3%と、厳しい状況だ。 バイデン大統領の懸念事項はさらにある。パンデミックによるサプライチェーンの混乱が引き起こすかもしれない失業とインフレのダブルパンチによる、スタグフレーションの不安だ。 FRBの政策によって不況が訪れたとしても、供給側でのコストによる値上がりによって相殺されるために、総需要の弱まりがインフレサイクルを断ち切ることができない、と懸念されるのだ。 アマゾンやアップルからはすでに、中国の最新のロックダウンによってもたらされた供給側の問題によって、最終損益に打撃が出ているとの情報が寄せられている。これは、スタグフレーションを招く可能性がある。そうなれば、政治家にとっては悪夢だ。