変異株出現による価格急落で原油価格対策は空振りか
補助金制度も空振りに終わるか
しかし、この補助金制度は場当たり的な対応であり、それには多くの問題点が指摘できる(コラム「ガソリン価格高騰への対応で政府が補助金を導入」、2021年11月17日)。 そもそも市場価格に政府が介入することは、自由な経済活動、市場の効率性を妨げる異例の措置である。また、ガソリン以外にも輸入を通じた価格高騰は、エネルギー関連、食品関連など既に幅広く及んでいる。電力・ガス料金の値上げも同様だ。他の業界からも同様な補助金の導入を求める声が高まり、収拾がつかなくなることはないか。 この補助金制度は、最終需要者である個人や運輸業者などを支援するものだが、一方で中間段階の企業を支援しないのは不公平となるのではないか。輸入原材料価格が高騰する中、最終財の生産者物価や消費者物価は比較的安定を維持している。これは、輸入原材料価格高騰の影響の相当分は中間段階で吸収され、既に中間段階の企業収益を圧迫していることを意味する。 また、元売り業者に補助金を出しても、価格上昇を抑えることができるのはガソリンなどの卸売価格だけだ。ガソリンスタンドが小売価格の上昇を抑えなければ、小売価格の安定策としては機能せず、実質的にはガソリンスタンドへの補助金に終わってしまう可能性もある。さらに、ガソリン・レギュラーの小売価格170円を基準とする根拠は明確ではなく、また、170円を大きく超えてガソリン価格が上昇すれば、価格上昇を抑える効果は薄れてしまう、といった問題もある。 このように多くの問題を抱える補助金制度であるが、変異株「オミクロン株」を受けた原油価格の下落が定着すれば、この制度は発動されない可能性が高まり、異例の政策も空振りに終わってしまうだろう。 (参考資料) 「米国が石油備蓄放出、OPECプラス増産一時停止も」、2021年11月25日、フィナンシャル・タイムズ 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英