見ているようで実は観ていない!なぜ人は陳列棚ですぐに商品を探せないの?
小売店の棚割(どのような商品をどの陳列棚に置くかを決めること)に関するマーケティング調査などでは、買い物客がどこを見ているのかを把握するためにアイトラッカー(眼球運動測定装置)がよく用いられます。買い物客がよく見る陳列棚の場所がわかれば、そこに売りたい商品を置くことによって売上げを増やせるであろうという考え方に基づいているわけです。しかし、この考えは少々短絡的です。なぜなら私たち人間は何かに眼を向けていても、それが何かを理解していないことがあるからです。 人が手に取る商品パッケージ、人間の行動・心理を考慮したデザインへのヒント 皆さんはお店などで買いたい物を捜しているときに、その品物がすぐ目の前にあるのにもかかわらず、なかなかそれに気付かなかったという経験はないでしょうか? 私は自分の好みのガムがお店のいつもと違う場所に置いてあったりすると、捜しているのになかなか見つからないということがよくあります。結局は、目の前の棚のちょっと横の場所に陳列してあるのを発見し、なぜすぐにわからなかったのか不思議に思います。 なぜこのようなことが起こるのでしょうか? それには人間の情報処理におけるさまざまな特性が関わっているのですが、最大の要因は「注意」(attention)の問題にあります。人間は外界の情報の多くを視覚系によって受容していますが、その視野に入った対象すべてを即座に認識することができるわけではありません。もし視野に存在するすべての対象を即座に認識することができるのであれば、上記のように陳列棚に置いてあるガムをすぐに見つけられないということは起こらないはずです。ましてや、それよりもはるかに気を付けているはずの運転中に、赤信号を見落として信号無視をしてしまうなどということは起こらないはずです。 実は人間は意識していませんが、その視野にあるたくさんの対象に対して、同時に等しく注意を払うことはできないのです。ここで、単に視野にあるだけに過ぎないことを「見る」と表し、対象に注意を払ってそれを意識することを「観る」と表してみましょう。そうすると、人間が外界の情報を捉えるには、2 つの段階があると考えられます。最初は視野の全体を「見る」という段階で、大まかに全体像を把握します。そして、次の「観る」という段階で、その視野の中にある個々の対象に順次注意を払いながら、その詳細について捉えるのです。
心理学の研究で行われた“change blindness”(変化の見落とし)の実験というのがあります。これはちょうど「間違い探し」のような課題を行う実験です。2 つの画像が交互に呈示されるのですが、その2つには1か所だけ異なるところがあり、その相違点をできるだけ早く見つけることが被験者の課題です(図参照)。この課題を行ってみると、実際に視線がその相違点のある場所にあっても、そこに深く注意をしなければ、その相違に気付かない(見ているようで観ていない)ということが理解できるでしょう。
BB STONEデザイン心理学研究所