<あんのリリック>宮沢氷魚インタビュー(2) 「このドラマを通して、“言葉”の持つ魅力を再認識してほしい」
2月27日(土)と3月6日(土)の2週にわたり、WOWOWプライムにて放送される「ドラマWスペシャル あんのリリック -桜木杏、俳句はじめてみました-」。俳人・堀本裕樹による青春俳句小説をドラマ化した本作は、人との関わりが苦手な芸大生リリックライター・桜木杏が、俳人でコピーライターの連城昴に声をかけられたことを機に俳句の世界に触れ、新しい自分と出会っていく姿を描く。 【写真を見る】「言葉を扱う仕事」である俳優業に携わる宮沢氷魚が、ドラマを通して感じたこととは? 今回、広瀬すず演じる主人公・桜木杏との仲を、俳句を通して深めていく連城昴役の宮沢氷魚にインタビューを敢行。後編となる今回は、本作のテーマとなる「言葉」についての思いや撮影時のエピソード、さらには今後の展望などについても語ってもらった。 ■「毎日『言葉』と向き合う中で、せりふを伝えることへの“責任感”を改めて感じた」 ――今回の作品は「言葉」が大きなテーマとなりますが、宮沢さんご自身の人生の中で特に印象に残っている言葉や、ご自身の転機になったような言葉や格言などはありますか? 「強くて優しい人間でいなさい」という言葉ですね。とにかくできる限り強い人間でありながら、時には自分に厳しく、でも人には優しくして、自分よりも弱い人がいた時に助けてあげられるくらい、心の余裕を持てる人間でいられればいいなと思っています。 何かきっかけがあるわけではないんですが、色々抱えこみすぎちゃって辛い時とか、一番必要な時に何となくその言葉が頭をよぎることがあって。すごく頻繁に思い出すわけではないんですが、改めて「強くいないとな」と自分を勇気づけるというか、力強くさせてくれる言葉です。 ――本作の中で特に印象的だったせりふや、劇中で詠まれる句やリリックなどで印象的な言葉はありましたか? 本当に素敵な言葉が多かったんですが、中でも昴が杏に言う「僕たち句友だろ」ってせりふがすごく印象に残っていて。単に「僕たち友達だろ」と言うだけじゃなくて、俳句というものを通して友達になった二人の関係性を「句友」という言葉で表現しているのとかがすごくいいな思ったんです。 共通の趣味を持った人と友達になることは、普通の友達とはまた違ってもう1レベルも2レベルも深いところで繋がれるような気がしているので、この言葉は昴と杏を結びつける言葉というか、距離が縮まるきっかけになった言葉なんじゃないかなと感じています。 ――杏のせりふにも「“句友”と“クルー”で韻が踏めるな」という言葉が出てきますが、そこも単に韻を踏んでいるだけでなく「仲間」という意味合いで通じていて、非常に興味深いなと思って拝見していました。 そうですね。このドラマはもちろん昴と杏の物語ではあるんですが、句会メンバーであったり、(昴が勤務する広告代理店)「デクサス」のメンバーであったり、ただの知り合い同士というだけじゃなくて、もっと深いところで繋がったそれぞれの関係性をすごく鮮明に映し出されている気がするんです。 なので、そういった部分もすごく注目してもらいたいですし、後編では江ノ島に行ってみんなで俳句を作る「吟行」という行事もあって、僕自身ちょっとした遠足みたいな感じですごく楽しめたんです。そういった関係性を持った仲間を自分も見つけたいな~なんて思いました。 ――俳優も「言葉を扱う仕事」と言えると思いますが、本作を通して「俳優業とのつながり」という部分で何か感じられたことはありますか? もちろん僕も俳優として責任を持ってせりふを言っているつもりではあるんですが、さまざまな作品に関わらせていただく中で、せりふに対する意識が次第に薄れていくというか、そこまで考えなくてもできるようになってしまう瞬間が時々あると思うんです。 ですが、そこをおろそかにしてしまうと伝わるべきものが伝わらなくなってしまう可能性があるので、今回の撮影中毎日「言葉」と向き合うことによって、これからの作品でもしっかりせりふの意図というか、伝える責任感のようなものを改めて感じることができたかなと感じています。 ■吟行のシーンは「仕事を忘れて本当に句を書きに来た感覚」 ――今回の撮影を振り返って、現場で特に印象に残っていることを教えてください。 句会のシーンはすごく楽しかったんですが、ちゃんとした句会のルールというか手順があるので、それは作品前に一度皆集まってお稽古はしたんです。例えば自分が選んだ句を発表する時は「〇〇選」と言うとか、わからないことも多かったし、現場のスタッフさんと色々相談しながらやってみましたね。 この作品を通して俳句に興味を持ってくださる方も多いと思いますし、そういう方々が句会に参加したいと思える空気感を作っていきたいと皆さん思っていたので、「うそがないようにしっかり描く」という意識でやっていました。なので、楽しかったですけど結構頭を使いました。 ――「頭を使った」というのは、句会のルールを順守しながら演技を進めていくという部分でしょうか? 僕の場合は若い頃から俳句と向き合ってきた役なので、おどおどしていたり、新入りな感じが出てしまったりするとだめで。その空気感というか、慣れた様子をしっかり出さないといけなかったので、そこは難しかったです。 そんな中で、(昴の師匠・本宮役の)田辺誠一さんがリーダーというか、句会の進行役をやっていたんですけども、いい意味で句会の空気を和ませようとしてくださって、本当に色々と助けられました。 ――その他、共演者の皆さんとの印象に残ったエピソードがあれば教えてください。 昴の上司というか、プロジェクトのリーダーを演じた夏川結衣さんとのシーンが結構あったんです。今回初めてお会いしたんですが、すごく明るい方でお母さんみたいな存在というか(笑)。 夏川さんとのシーンは、昴としては悩んでることも多いんですが、カメラが回っていない時はとにかく明るくて。(撮影のオンとオフの)メリハリをつけてくれる方で、夏川さんがいると現場がちょっとなごむ感じだったので、そういった部分で助けられました。 ――先ほど話題に上がった「吟行」のシーンは、実際に江ノ島の各所で撮影をされて結構大がかりなロケとなったと思いますが、振り返ってみていかがでしたか? 撮影していることを忘れちゃうくらい楽しくて。景色であったり、一緒に行った句会のメンバーとのやり取りだったり、本当に「吟行」しているというか、仕事を忘れて句を書きに行っているような感覚になっていました。改めて見ても、あのシーンはみんなが自然体というか、心の底から江ノ島にいることを楽しんでいるなって思いました。 ■大きなスランプの前では「とにかく忘れてリフレッシュ」!? ――物語の中で、昴はちょっとスランプ気味な時に杏と出会い、自分の人生が大きく変わっていくことになりますが、宮沢さんはスランプというか何事もうまくいかないような時期を経験されたことはありますか? また、そういう時はどのように状況を好転させていますか? 大きなスランプみたいなものは何年かに1回なんですけど、「何かうまくいかないな」っていうことは結構しょっちゅうあって。自分が思い描いているものが作品の中で表現できなかったり、答えが見つからなかったりした時は、結構落ち込むというか、どうしたらいいかわからなくなるんです。 そういう時は、無理やりでも一旦それを忘れる環境に自分を持って行くんです。家にいたら、そこまで深く考えなくてもすーっと入ってくるような他の作品を見て、リフレッシュというかもやもやみたいなものを一緒に洗い流していますね。 ――このドラマを通して、俳句やラップの“歌”を通して表現される言葉、つまりは歌詞やリリックの魅力を改めて考えた部分はありましたか。 もともと音楽を聴いている時、CDなら歌詞カードを積極的に見るタイプではあったので、この作品を通して改めてということはないんですが、今まで自分がやってきた「歌詞に興味を持つ姿勢」みたいなものは間違ってなかったんだなというか、「いいことをしていたんだな」とは再認識しました。 ――実際歌詞やリリックなどを見ていて、宮沢さんが「これいいな」とか「グッとくるな」と思われるのはどういった言葉なのでしょうか? 曲を聞いていて「この歌詞いいな」と思ったものをノートに書いたり、覚えたりということはしないんですが、その時々の自分の心理状態にグッと当てはまる言葉にはすごく共感しちゃいますね。 でも、その状態から解放された時に聞いても意外と響かないこともありますし、その時の自分の気持ちによって大きく左右されるような気がしていて。だからこそ、いろんな音楽と出会えると思いますし。 仮に「どんなときでもこの曲を聞けば全部が解決する」っていう歌が僕の中にあったとしたら、他の音楽を聞かなくなってしまうと思うんです。その時期によって共感できる、できないっていうものが変わっていくからこそ、いろんな音楽を聞いてみたいと思えるんじゃないでしょうか。 ■「自分の強みでもある英語を使って、何らかの形で発信していきたい」 ――「エール」(2020年、NHK総合ほか)のロカビリーシンガー役に続いて、本作もコピーライター兼俳人という、ある種クリエイター的な役どころとなりましたが、ご自身の中で、これまでの俳優やモデルとは異なる形で何かを表現してみたいという思いなどはありますか? 英語が話せるので、それによってコミュニケーションがとれる層やエリアがかなり大きく広がると思っていて。自分の強みでもある「言語」を、何らかの形でもう少し世の中に発信できればいいかなと思っています。具体的なことはまだ全然定まっていないんですが、英語を使って発信できたらいいなというのは、結構前から考えています。 ――英語を話される方やバイリンガルの方で、「日本語で話す時と他の言葉で話す時ではちょっと性格が変わる」という話を伺うことがあるんですが、宮沢さんもそういった経験はありますか? それはあると思います。言語自体が持っている性質もありますが、やっぱり日本語だと改まってしまうというか、身構えてしまう部分があると思っていて。でも英語の場合は、目上の人に対して話す時と友人同士の会話などであんまり言葉が変わらないので、その分距離は詰めやすいと思います。 例えば日本だったら先生のことを「〇〇先生」と苗字で呼ぶじゃないですか。アメリカだと先生でも下の名前で呼んだりして、友達感覚になれたりもするので、そういった部分も心を開きやすいというか。仲良くなるにも多分時間がそこまでかからないので、性格面で変わる部分はあるんじゃないかなと感じています。 ――最後に視聴者の皆さんに向けて、本作の見どころを交えてメッセージをお願いします! このご時世、「言葉」というものがある意味より身近になっている気がしていて。SNSもそうですし、情報が世界のどこにいても手に入るからこそ、言葉が持つ重みがおろそかになっているような気しているので、改めて言葉が持っている魅力を、この作品を通して再確認してほしいです。 あと、日本に住んでいながら俳句という文化をよく知らない人も多いと思うんです。日本にはこんなに美しい景色と言葉があふれているので、皆さんに俳句をもっと知っていただきたいですし、興味があったらぜひ句会にも参加していただきたいな~と思いながらこの作品を撮ったので、それが伝わればいいなと思っております。