メジャーリーグ “低レベル”な本塁打タイトル争いの背景
ファンには落胆させられることだが、本塁打の量産ペースは、メジャーで「1994年から始まったいわゆるステロイド時代」と「大リーグ機構が新しい薬物検査ポリシーを導入した2006年」を境に、伸びと衰退が見事に同調していると言わざるをえない。マーク・マグワイアとサミー・ソーサが激しい本塁打争いを演じたのが、1998年。その後、バリー・ボンズが73本塁打を放って大リーグのシーズン最多本塁打新記録を樹立した2001年にピークを描いた本塁打は、年々減少傾向にある。1試合ごとの平均本塁打は2000年に1.17本のピークを記録したが、徐々に降下して今季は9月14日の時点で0.87本である。 ■「やったもん勝ち」になる薬物使用 今回、禁止薬物使用が発覚したクリス・デービスの「25試合の出場停止処分」については、米メディアの間では「甘い」という見方も多い。「間違ってアンフェタミンを使ってしまいましたが、今年はもう使っていません」というクルーズ本人の謝罪表明をみれば、薬物効果でタイトルを獲得したと認めたようなものだが、昨年オフにFAとなった彼は、その二冠のタイトルや球宴選出などをセールスポイントにしてオリオールズと約3倍増に相当する1035万ドル(約11億円)の単数契約を勝ち取っているからだ。今回の処分による減俸は25試合中の17試合に当たる公式戦のみが日割り計算で減額され、大して痛手にならない。「だから、やったもん勝ちという風潮になる」とベテランの米国人記者は厳しい顔つきで言った。 ■リストにない薬物が新しく開発される テレビ放映権を財源とした豊富な資金力を持つメジャーの球団は、投手ならば先発、打者ならスラッガーと高額契約を結ぶ傾向が強い。そんな背景もあって、本塁打量産を目論んで、筋肉増強剤やパフォーマンスの精度を上げる興奮剤など禁断のドーピングに手を出す選手は後を絶たないし、次から次へと禁止リストにない新しい薬品が開発されている。それでもデービスが今年になって別人のように調子を落とし、40発男が9月半ばを迎えて一人もメジャーに現れないのは、大リーグ機構が押し進めている薬物撲滅運動が、少しずつでも効果を現しているということだろう。