GRヤリス 一番速いヤツと一番遅いヤツ
GRヤリスの試乗会は今回が3度目である。年明けのオートサロンでは見るだけだった。ということになっているが、その時点で筆者はすでに乗っていた。12月16日に、富士スピードウェイのジムカーナコースと駐車場に作られたと特設ダートコースで迷彩を施されたプロトタイプをテストしたのだ(ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来参照)。 【写真9枚】GRヤリスの見分け方 オートサロンで発表するまでは記事を載せませんという誓約書を書かされているので、掲載を我慢した状態で年を越えた。まあ実のところ販売店研修会のおこぼれで、大勢にしごき倒された後のクルマはだいぶコンディションが悪く、性能の片鱗(へんりん)を垣間見た程度のものだった。 その後やはり7月終わりに富士スピードウェイのショートコースで、「RZ“High performance”」「RZ」「RS」の3台を試した(GRヤリスで「モータースポーツからクルマを開発する」ためにトヨタが取った手法参照)。 そして年の瀬の足音が近づいてきた今頃になって、ようやく公道試乗会に至ったわけである。まあトヨタとしても、いろいろ情報公開の作戦はあるのだろうが、さすがにほぼ一年がかりは長すぎると思う。 まあ書き手のわれわれが多少の迷惑を被ったとしても、仕事なのでそれは構わないが、どうもこの一連のスケジュールは、ユーザーにとってのベストではないような気がする。 年明け早々にティーザーキャンペーンが開始になって、せっかく「欲しいな」と思っても、半年以上続報無し。7月になってようやくサーキット試乗記が出る時点では、発売記念限定のファーストエディションはすでに完売済みで、レギュラーモデルは仕様はおろか価格すら分からない。 あるいは購入希望者が、公道でのインプレッションを待って、日常の使い勝手を知りたくても、肝心の試乗会は9月4日の発売に遅れること2カ月以上。「メディアの記事なんて信じない」という人も増えている昨今のご時世に鑑みても、ディーラー試乗車の配備は実質ゼロで、自分で直接情報を収集することができない。 どうしてもというならば、MEGA WEBまで行けば展示車両に触れるし、「ライドワン」で300円払えば、RZ“High performance”グレードのみ試乗することはできるが、これはこれで予約枠が争奪戦。当日予約しかできないので、乗りたい人は午前0時にwebページの予約ボタンの早押し競争をする状態だ。なおかつクルマがラリーウェポンと来ている。ライドワンの狭く短いコースでは、とてもではないがパフォーマンスの一部ですらチェックできないと思う。 要するに年明け早々にティーザーキャンペーンを張って、欲しい気持ちを盛り上げておきながら、以来延々、ユーザーは商品を確認する方法がない。400万円も500万円もするハイパフォーマンスカーを実車を見ずに、直感で買えという構造になっている。もちろんトヨタがそれをわざとやっているとは思わないが、わざとだろうがしょうがなくだろうが客にとっては同じこと。コロナ騒動でいろいろ予定通り進まないところはあったにせよ、お客のためにベストを尽くしたのかと問いたい。 クルマの出来は褒め足りないくらいに良いのに、この販売と広報のやり方はないと思う。おそらく聞けば事情があるのだろうが、結果だけ見れば「天狗(てんぐ)の鼻がだいぶ伸びている」ようにしか見えない。お客さま第一ではなかったのか? こんな時代にWRC生まれのクルマに期待してくれる大事なファンへの向き合い方は、もう少し考えた方がいい。トヨタがそんなことでどうするのだ。