京都の聖域に泊まる贅沢! 温泉、能舞台、スパ、建築……バンヤンツリー・東山 京都で出会う非日常の感動
紅く色鮮やかに染まる山々。京都はいままさに紅葉のベストシーズンだ。多くの観光客であふれる市中とは裏腹に、静寂の時が流れる別世界がある。清水寺と高台寺の間に位置する霊山(りょうぜん)、その豊かな自然を背にひっそりと佇む「バンヤンツリー・東山 京都」だ。世界有数のリゾート&ホテルブランドが日本の古都で表現した、温泉旅館の新しいカタチとは? 実際に泊まってみた感想をお届けしよう。 【画像を見る】スケスケ!? 屋根も壁もない隈研吾設計の能舞台
2024年8月に開業した「バンヤンツリー・東山 京都」は、半世紀以上にわたりこの地で愛されてきた「ホテルりょうぜん」の跡地に誕生した。清水寺や高台寺、八坂の塔(法観寺)などにも徒歩圏内で、京都市内を一望できる東山の高台に位置する。 多く人で賑わう二寧坂(二年坂)や産寧坂(三年坂)から分岐する急な坂を上がったところ、ホテル通なら「パーク ハイアット 京都」のさらに裏手といえば通じるだろうか。幕末の歴史好きなら、坂本龍馬の遺骨が眠る「京都霊山護國神社」へと続く「維新の道」といえばわかるだろう(二寧坂から折れる「龍馬坂」を登って行くこともできる)。 坂を登り切った先に鎮座するのは、ヒノキなどの天然木材を用いた正門だ。まさに霊山への入り口を思わせるような静謐な“気”がそこはかとなく漂う。門をくぐると、力強く張り出した大庇(おおびさし)に目を奪われる。白木を幾重にも交差させた重厚感のある意匠は、つい足を止めて見上げてしまうほどの存在感で、隈研吾の設計と聞いてなるほどと頷く。 霊山の地にちなみ、「幽玄」をコンセプトにしたというその建物は、黒を基調としならがも天然の木材で奥行きを持たせ、日本の伝統的な建築技術を取り入れながらモダンな佇まいを両立させている。東山の景観と見事に調和し、そこには幻想的で隠れ家のような空間が広がっている。 「バンヤンツリー・東山 京都」のコンセプトである幽玄の美を最も象徴的に表しているのが、宿泊棟の裏側の庭に建つ、京都のホテルでは初となる能舞台だ。この「幽玄」という言葉は、『風姿花伝』や『花鏡』といった世阿弥が残した能楽書でたびたび使われている、能と深く結びついた概念でもある。 古くからこの霊山地区は「現世と来世を隔てる結界のような場所」として知られてきた。能の主役であるシテは、この世の者ならざる存在として描かれることも多く、「鎮魂の芸術」といわれる能がこの地で繰り広げられることは必然の美であったのかもしれない。 舞台は木組みだけの構造体で、あえて屋根や壁を取り払った設計は、背後の木々や空と溶け合うようにという意図があるという。また水盤の上に建つことで、舞台そのものが水に浮かんでいるように見える視覚効果を狙ってとのことで、まさに自然と人間界をつなぐ舞台装置とも言える。 京都の地で紡がれてきた日本の伝統の美に触れる、非日常のひと時を体験できる場だ。